ベルンは本来の賑やかさと輝きを取り戻した。人々も活気に溢れ、これから行われる行事の準備に花咲かせていた。
私にとって故郷と呼べるに値する町はない。牙として生活していた時は転々としていて、一定の場所に長く住んでも1ヶ月にすぎなかった。
だからこうしてこの国の旗を上げる時に沸き上がった歓声も、私には何やら不思議なものだった。
「もう準備を始めるのね」
「ああ。終戦後、初めての祭だし皆も盛り上がってるみたいだからな」
準備の様子を見るためベルンの中心へとやって来た私たちの前に、開けた広場が現れた。そこでは色とりどりの飾り付けが施された大きな木が飾られているところだった。
「綺麗…」
「クリスマスツリーか。一時はあれを撤去して行った時もあったが、随分と寂しかったな」
「そうなの…。クリスマスって、あの木がシンボルのようなもの?」
私の質問にヒースは困ったような表情をした。確かにシンボルのうちの一つだが、ツリーが一番重要なものかと言われるとそうでもないらしい。他にも色々あるから、と手を引かれて向かったのは様々な店が並ぶ大通りだった。
「これは何?」
「ああ、リースか」
「リース?」
黒い牙にいた時はクリスマスなど祝ったことがなかった。兄さん達も何も言わなかったし、ウハイやラガルトから聞いたこともなかった。大して重要な行事ではないと思っていたが、こんなにも華やかだったとは。目を輝かせて街を見る私を、ヒースは優しい瞳で見つめていた。
「あれは?赤い帽子の…」
「サンタクロース人形だ。クリスマスの夜、トナカイが引くソリに乗って子供達にプレゼントを配るんだ」
「ふふ、素敵な話ね」
世界はこんなにも平和になった。
憎しみいがみ合っていた時が、もはや嘘のようだった。私は笑みを零さずにはいられなかった。人々の笑顔が、こんなにも美しく輝くものだったなんて。
「?何かおかしかったのか?」
「いいえ、ヒース。こんなにも皆の幸せが溢れているんだもの。生きてて良かった、と思って」
「そうか。俺も、名前の笑顔が見られて良かった」
この人が隣にいてくれることを、あの時はどんなに望んだことか。それがいとも簡単に叶えられて、当たり前に感じられるようになった。
私はそんな些細な幸せを、噛み締めるように歩いた。そして彼よりも遅いスピードに、自然と合わせてくれていたことにも気が付いた。
「ヒース、ありがとう」
「何がだ?」
「あなたの全てに、感謝するわ」
私の言葉に彼は笑った。
なぜ笑うのかと問うと、その答えはすぐに返ってきた。どうやらそういった言葉は、クリスマスの夜に言うものらしい。少し早かったのね、と私が恥じらいを見せると、ヒースは足を止めて私の目を見つめた。
「言わなかったか?クリスマスは、恋人同士が愛を囁き合う日だと」
「それは…聞いたような気がするわ」
「名前が俺の話を聞いていないなんて、珍しいこともあるんだな」
俺よりも祭の準備を見ることに気を取られていたのか?と悪戯っぽく聞く彼に、私もつられて笑いながらごめんなさい、と言うと頭をくしゃっと撫でられた。
「クリスマスの夜、楽しみにしてるからな」
「え?それはどういう…」
「俺の話を無視した罰だ」
そんなこと言われてもと思い、私はある人物に助言を求めるのだった。その答えが、間違いだったのか正解だったのかは、答える術もないが。
(ねぇヴァイダ。私、クリスマスの夜にヒースに何をしたらいいのかしら?)(へぇ、あのひよっこもやるね。ほら)(これは…?)(見てわかるだろう?サンタクロースの服だよ)(着ればいいのね)(さすがは軍師。物分かりがいいじゃないか)
期待とは違い、普通の服ではなかった。
しかし他にこれといった手段がないので着ないわけにもいかず、私は仕方なく袖に手を通した。
「ヒースは、喜んでくれるかしら…?」
愛する人との、甘い夜を。
Merry Christmas.
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