人は変わるものだ。置かれる環境、人間関係、地域、様々なものに影響されて変わってゆく。それを止める術はないのだが、どこかで変わってしまったことへの罪悪感や悲しみが付いて回ってくる。
私もまたそのうちの一人だった。
ルセア、と声を掛けたら返ってくる優しい声が大好きで、彼が孤児院を立ち上げたいと言い出す時も側にいた。

「ベルン軍が攻めてきている…?」
「はい…。最早手立てがありません。名前さん、子供たちを神父様の元へお連れください」
「いいえ、神父様の元へだったら年長のルゥやチャドにも出来るわ。貴方を残して此処を去るなんて出来ない」
「しかし名前さん、この戦いは…!」

無意味だと言いたいのだろうか、ルセアは口を噤んだ。はらりと金色の髪が肩から流れ落ちる。私はそんなルセアに笑顔を向けた。貴方と一緒に過ごせて良かった、側にいられて良かった、幸せだったと。

「名前さん…」
「貴方のことは私が守るわ。もう二度と貴方を置いて行かないと誓ったから…」
「私も戦います。たとえこれが最後の戦いとなっても、私にとって名前さんと共にいることに意味があるのです。ですから…」

此処に残ることを許してください、とルセアは力強い視線を寄越した。そんな彼に私は大きく頷き、扉の隙間からこちらの様子を伺っていた子供たちに声を掛けた。ルゥは明るくてしっかり者で、チャドはぶっきらぼうだけれど面倒見が良くて、二人とも幼い子供たちのお兄さんになってくれた。

ルゥ、チャド、そしてレイ。
ルセアの心を溶かしてくれてありがとう。側で笑顔を見せてくれてありがとう。

「さあ、行って。子供たちをお願いね、ルゥ」

ドラゴンの翼が羽ばたく音が聴こえ、ベルン軍はすぐそこまで迫っていることを知らせる。私は子供たちを裏口から修道院の神父様の元へと向かわせ、その背中を見送った。
ルセアと二人きりになるのはいつぶりだろうか、と考えるとそれは間違いなくあの戦乱の最中であったように思える。

「後悔がないといえば、嘘になる。それでも私は貴方と此処にいることを誇りに思うわ」
「ええ、私もです……名前さん。私のわがままに付き合ってくださり、本当にありがとうございました…。此処で過ごす時間は、本当に幸せでした」
「私もよ、ルセア。幸せを…ありがとう」

久しぶりに手にしたミィルの魔道書はずっしりと重く感じられたものの召喚の魔法はすらすらと口から発せられる。体が覚えているとはまさにこの事だ、と私は心の片隅に生まれた情けなさを押し込んで闇魔道の言葉を続けた。

「名前さん、そのまま聞いてください」

背中からふわりと抱き締められた感触がした後、ルセアの優しい声を近くに感じて私は目を閉じた。
ルセアの存在は私にとって希望だった。彼と共に過ごす時間は全て新鮮で輝いており、ここまで来るのに苦労したことも良い思い出として刻み込まれている。そしてその時間が、刻一刻と終焉に近づいていた。

「私は、貴女のことを愛しています。この先もずっと、生まれ変わってもきっと…貴女に惹かれるでしょう。その時は、」

また私と出会ってください。
ルセアの言葉が終わると同時にドラゴンナイトが孤児院へ攻め入り、返事を返す間もないまま私の闇魔法も目標へと放たれた。ルセアは私から腕を解いて魔道書を手にし、ライトニングを唱えていた。

ルセア、私も貴方が好き。
来世でも貴方を探して会いに行くわ。
だからその時は、

「ずっと側にいるわ、約束する」

目まぐるしく変わりゆく世界の中にある、たった一つの変わらない気持ちが私の中で煌めきを帯びた。