私は自分の限界が着々と近付いているような気がしていた。今までは苦しくて助けを求める夢で、起きると涙が出ていることが多かったのに、最近見る夢はいつも皆が笑顔で幸せな夢ばかりだったのが、その理由の一つだった。

「そろそろ…なのかしらね…」
「名前様?」
「シーザ…聞いても良い?」
「はい。何でしょうか」

外は晴れているか、空気は冷たいか、そんな他愛もないことを私は隣にいるシーザに聞いた。
どうやら天候は良好で、私が出掛けるのには都合が良いようだ。雨の日は憂鬱だ。ただでさえ一人で出掛けるのが難しいというのに、雨模様では何処へ行くとこも許されない。

「んっ…」
「名前様!お一人では危ないですよ!」
「ラディ、ありがとう。でも大丈夫。このくらいなら私一人で出来るわ」

私は体を起こし車椅子へと移ろうとしたがやはり一人では自分の体を動かせず、ラディに支えてもらって私の足になる椅子へと降りた。
長い休養生活のおかげで筋力もすっかり衰えてしまったのだろう、自分の体を自分で動かせないことはとても寂しかった。

「ここからは私がお供いたします」
「ええ、お願いねシーザ。ラディ、ありがとう」
「名前様、お気を付けて」

外の空気を吸うことはとても心地がよかった。戦いの最中はずっとこの空気に触れていたというのに、少し離れただけでこんなに懐かしくなるなんて。
命をかけた戦いの時に戻りたいなどその重さを軽んじていると思われても致し方ないが、今の私にとってはあの時こそが輝いていたと感じる。

「ねえ、シーザ…」
「はい」
「あの人は…元気?」
「…ジョルジュ殿のことですか?」

会わないと決めたのは私だった。彼に会えば生きたくなる。死にたくないと嘆きたくなる。彼と同じ歩幅で歩きたくなる。だから私が拒絶したのだ、そうなる自分を想像するとどんなに滑稽で醜いか分かっているから。

「つかぬことをお聞きしますが…お会いしたいのでは?ジョルジュ殿に」
「シーザ…あなた…!」
「お言葉ですが名前様、もう少しご自分に素直になるべきです」

シーザの目は至って真剣だった。
残された時間は短いだろう。夢見のせいもあるが、薬の少なさからも察するに、もう助からない。シーザも昔はこんなこと言わなかった。

「…素直に……」
「…」

空気が変わった。
後ろにいるのはシーザではない。この感じは…まさか…。
いや、そんな都合の良いことがある訳ない。私は頭に浮かんだ甘い幻想を振り払うように瞼を閉じた。
しかし、ふわりと吹いた風に乗った匂いで私の幻想は本物へと変わった。

「っ、ジョルジュ…!」
「よく分かったな」
「どう、して…」
「俺がお前に会いに来た、それだけのことだ。何をそんなに驚く」

あんなに拒絶したのに、あんなに酷いことを言ってしまったのに、彼は何一つ気にしていない顔で私を見ている。
ずっとずっと会いたくて堪らなかったのに、我慢していたのに、なぜこの人はいとも簡単に。

「…っ……」

涙が止まらなかった。まるで涙の蛇口が壊れてしまったかのように止まることを知らなかった。
そんな私を彼は静かに優しく抱きしめてくれた。綺麗な金色の髪が濡れてしまったけれど、そんなことを構ってはいられなかった。

「もう泣くな。名前、俺はお前から離れない。例えお前に何を言われたとしても」

言葉なんか何もいらなかった。
今ここに、私が世界で一番大好きな貴方がいる。
短い人生で貴方に出会えて、本当に良かった。

夢だったら、どうか覚めないで。