彼女はいつも彼を見ていた。私はいつも彼女を見ていた。そして、そんな平行線の均衡を打ち破ったのは私。
ある時の彼女はまた金色の髪を持つ彼を見ていた。いや、見ていたというよりはぼんやりと視界に入れているようだった。

「名前さん?」
「……ロベルトさん…」
「また彼を見ていたの?」
「ち、違います!前にも言ったかもしれませんが、アストリアさんにはミディアさんが…」

彼女はいつだってこうして否定するけれど、全くもって説得力は無い。事実関係としては正しいのだろうが、彼女が彼を見ていることに変わりは無かった。

「そうだったね」
「…あ!」
「ん?何かあった?」
「いえ、うさぎがいたものですから…つい…」

名前さんの視線の先を追うと、そこには一羽のうさぎが草むらに見え隠れしていた。ふと彼女に目を向けると、優しい瞳でうさぎを追いかけていた。

「好きなのかい?うさぎが」
「はい…。うさぎというか、動物は皆好きです。馬は勿論、犬や猫も」
「そうか。それは私と気が合いそうだね」
「確かロベルトさんは…馬のお世話がお好きなんですよね?噂で聞きました」

彼女が動物好きだったことは少し意外だった。話を聞けば、騎士になれなければ王国が所持する家畜の世話役にでもなろうと思っていたのだそうだ。
しかし彼女は騎馬兵ではない。そのことを聞くと、馬に乗って戦うことが出来るほど器用では無かった、とはにかみながら語ってくれた。

「そうか…。私は気が付いたら馬達と共にいたからそんなことを考えたことは無かったな」
「私は戦う力が皆無で…やはり馬の上で何かするのは厳しかったんです」
「どちらにしろシスターしか道は無かった、ということなのかな?」
「はい…。今は司祭として魔法も使えるようにはなりましたけど…」

彼女の様子から、まだ実戦に対しては不安が残るようだった。私には心優しい彼女が敵を討つ様子が想像出来ず、素直に戦線に送ることを躊躇った。もちろんマルス王子がそれを望めば私に止める権利は無いが、出来れば戦ってほしくなかった。

「それなら、私の後ろで戦うといいよ」
「え?ロベルトさんの後ろで?」
「嫌…だったかな?私はあまり素早くないから助かるんだけど…」
「い、いえ!そんなことはありません!私で良ければ、頑張ります!」

なんて健気なんだろうと思った。アカネイア騎士の彼ばかり見ている彼女を振り向かせたくてこんなことを言ってるなんて、名前さんはきっと知る予知も無いだろう。
それでも、そんな卑怯な手を使ってでも私は彼女を手に入れたいと思っていた。

「ありがとう、嬉しいな」
「私の方こそ守って頂けるかわりに…しっかり働きます!」
「うん、でも根詰める必要は無いからね。いつも通りやってくれれば良いよ」
「そう…ですよね。空回りしないように気をつけます…」

くるくると変わる表情が素敵だった。ぱあっと明るくなったと思えば、すぐにまた暗くなる。グルニアの騎士にはそんな魅力的な人物は居なかった。

「…彼には渡せないね」
「ん?何か…言いましたか?」
「いや、何でもないよ」

そして聞こえてきた自分の名を呼ぶ声。太陽は既に西へと傾いており、そこでようやく同僚との訓練の約束を忘れていたことに気が付いた。生真面目なライデンだ、必ず雷を落とされるに違いない。

驚く名前さんをよそ目に、私は彼女の手を引いて走り出した。

(すまない、ライデン。私が悪いのは判っているけど、今回だけは許してほしい)