ふわりと揺れる金色の髪が視界の隅に映ったが、私はそれに気付かぬふりをして鍛錬を続けた。知らず知らずのうちに期待を寄せていた私は、その金色が自分の探し求める人ではないことに気付き落胆してしまった。

「名前?どうしたの?」
「あ…すみません、ミディアさん…」
「集中出来ないなら辞めるわよ」

姉と同然のミディアに窘められ、私はぼうっと構えていた剣を下ろした。あの戦いからどのくらいの月日が経ったろうか、私は再びアカネイア王国に戻り変わらない日々を過ごしていたが、どこか足りないような、落ち着かない思いがあった。
それは紛れもなく、見間違うほどに記憶に残ってしまったあの人の存在。

「すみません……」
「そもそも名前は剣なんて振れないでしょう?なぜ突然鍛錬を頼んできたの?」
「いえ…自分の身は自分で守らないと、と思ったので…」

あの人が守ってくれる世界は終わってしまったから。見慣れた白い軍服の大きな背中は、私の前から立ち去ってしまった。祖国の復興のため、そして戦乱に巻き込まれた沢山の人々のため。

「分かったわ。それは、また今度ね。私もアストリアとの約束があるのよ」
「すみません…いつも、ミディアさんに…」
「そんな顔しないの。ね?」

ぷ、と私の頬を挟んでミディアさんは微笑んで背を向けて行った。気の利くミディアは私が使っていた剣も持って行ってくれたようで、使い古したタオルの上にころんと転がった傷薬以外は何もなくなっていた。

「何、やってるんだろう。私」
「剣捌きはイマイチだね」
「本当、才能がないんです………。えっ…?な、なんで、ここに……!!」

目の前に現れたのは紛れもなく私の探していた金色の髪の人だった。変わらない優しい風を纏ってふわりと私に微笑んで、手を差し伸べてくれた。近くまで来たから顔を見に来たと言う彼に戸惑いを感じつつ、私はその手を取って立ち上がった。
顔を見に来ただけでは、また別れなければならないではないか。私は会いたかったはずの人を前に、訪れる別れに悲しみが募った。

「ん?名前、何か言いたいことがあるようだね?」
「ロベルトさん…」
「うん。何?」
「……行かないでください…」

彼には届かないように呟いたつもりだったが、私と視線を合わせるように腰を屈められた後に両手で顔を固定された。
ロベルトの透き通った瞳が私を捕えて離さない。目を逸らしても追いかけてくるその視線に、私は観念するしかなかった。

「あ、あの…」
「私はどこへも行かないよ」
「えっ…でも、ロベルトさん…、近くまで来たからって…」
「それは嘘だよ。グルニアの方角からアカネイアなんて、わざわざ来ない限り何処へ行く時に通りかかると思ってるの?」

ふふ、と笑うロベルトに全く付いていけず私はぼんやりと彼を見つめていた。彼が私に会いに来てくれたという喜びがにわかに信じられず不安げな顔をしていたのだろうか、ロベルトはもう一度真っ直ぐ私の目を見た。

「会いたかったよ、名前」
「ロベルト…さん……」
「私は君がいないとだめなようでね。こればかりはどうしようもないんだ。誰にも埋められない」
「でも、私…、そんな、ロベルトさんを支えることが出来るほど…」

強くはない、と言いかけた瞬間ロベルトは私の肩と後頭部へゆっくりと手を伸ばし、腕の中へ閉じ込めた。不意に抱き締められる格好になった私はどうしたら良いのか分からず、慌てる腕は宙に浮いたまま固まった。

「何もいらない。名前が居てくれるだけで、私は他に何もいらないよ」
「ロベルトさん、そんなこと…!」
「本当だよ。男に二言はないと言うでしょ?」

囁くような柔らかい声が私の鼓膜を震わせ、ふわふわな金髪が首元を撫でる。懐かしさと愛しさが溢れて私は彼の背中に腕を回すことでそれに応えた。
永遠なんてなくとも、私には彼が側にいてくれる。この先どんなに苦しいことがあっても、悲しいことがあっても、きっとこのぬくもりが私を救ってくれる。

「私がずっと側にいるからね、名前。」