ハーディン皇帝が悪い、と皆は言った。しかし私にはそうは感じられなかった。暗黒戦争のあとオレルアンに向かい、そこで故郷のため奔走していたハーディン様を思い出すと、どうしても胸が痛む。アカネイアのニーナ姫と婚約し喜びに満ちていたのに、あっという間にハーディン様は変わられてしまった。
もちろん、ニーナ姫の心はハーディン様ではなくグルニアの将軍カミュに向いておられたことが判っていなかったわけではない。それでも、ハーディン様はニーナ姫に振り向いて欲しくてたくさん努力してきたのに、叶わなかった。

「何をしている」
「エルレーン…」
「まさか、泣いているのか?」
「…私、間違ってたのかな…。ロシェやザガロ達と共にいるべきだったのかな…。エルレーン、あなたはどう思う?」

ハーディン様は仰られた。自分が過ちを犯した時には私達に正して欲しいと。それが、例えあの人の命を奪うことになっても。
しかし、私の中にはハーディン様の寂しい心に入り込んで操っているのはガーネフで、決してあのお方が間違っているのではないと信じている自分がいた。
いくらアリティア軍の人に諭されても、どうせ私達オレルアン騎士の思いなど絶対にわからないだろうと耳を貸さなかった。

「自分の信じる人間を、信じればいい」
「それは…あなたにとって、ウェンデル様?」
「無論だ」
「私の…信じる人…」

それはハーディン様かマルス様か、または狼騎士団の皆か、それとも他の人なのか。曇り空の私の胸の内とは裏腹に、太陽は眩しく地を照らしていた。
エルレーンのようにたった一人でも信じられる人がいたならば、どんなに苦労しないだろうか。自分の道を一任することが良いとは必ずしも言えないが、今の私には自分の進む道を決定する力がまるで無かった。

「ねえ、エルレーン。あなたが私の一番信じられる人になって」
「何を言っている?」
「怖いの。このまま戦って、私には何も残らない気がして…。ハーディン様を失った時、狼騎士団の人には頼れない。皆辛いもの」
「所詮、俺はその場限りということか」

違う、と否定すればエルレーンはいつもとは異なる笑みを見せた。それはどこか切なくて、私はふと彼の手をとった。少し驚いてこちらを見つめるエルレーンを横目に、私は言葉を紡いだ。

「私を、信じてほしい」
「名前…」
「お願いよ、エルレーン…。私……」
「……仕方の無い女だな」

不器用で意地悪で、かと思えば時に優しくて。私は、そんなエルレーンと共にいる瞬間がとても好きだった。
母なる大地と父なる空、この広い世界で彼と出逢えたことに感謝します。

「ありがとう、エルレーン…」
「気が向いただけだ」

後に英雄戦争と呼ばれるこの戦いが終わった際にたとえ離ればなれになってしまうとしても、私は彼と出会ったことや彼と過ごした日々をきっと忘れないだろう。

オレルアンとカダイン。
国境を接していながらも、そんな国の違いが私にとってはあまりにも遠く感じた。