※夢主:ヴェルトマー家


燃える炎が二人の間で揺れて赤色がちらつき、その明かりで彼女の睫毛が影を落とす。カリオンはその儚さから目を逸らすように炎を無心で見つめていた。セルフィナから渡された父の形見であるエリートの剣がずしりと重く感じられ、彼は父と剣の偉大さに敬意を表するように柄をきゅっと握った。

「いつか、この世界が平和になった時、」

名前が重い口を開いた。彼女は何かに迷っているようだ、とカリオンは感じた。名前と親しくなったのはつい最近のことで、それまで一切の面識もなく出身地すら知らなかった程であった。彼女はヴェルトマー出身でアルヴィスと近しい間柄にあたるそうだ。それを隠してこの軍に参加しているの、と今と同じように伏せ目がちに笑ったのをカリオンはよく覚えていた。何故それを自分に公表してくれたのか、何故自分がそれを誰にも言わず2人の秘密にしているのかは、彼自身も分からずにいた。

「カリオンは、レンスターへ行くのでしょう?」

彼は名前の問に答えを出すのを躊躇っていた。否、出すことが出来なかった。ヴェルトマー直系と言って良い顔をする人間がこの軍にいるかと言えば、そうではないのが現実であった。バーバラの悲劇で親を失った者が多い中、彼女の存在は皆にとって扱いづらいことは明白だった。ヴェルトマーの人間と知っても変わらず接することが出来る自分の方がよっぽど稀有なのかもしれない。
かと言って彼女の問に対してレンスターに行くと即刻答えて突き放すわけにもいかないが、期待を持たせるのも残酷だ、とカリオンは迷っていた。

「貴方はレンスターの騎士だから…フィン殿のように聡明で、強い騎士になる」
「それは言いすぎだ。でも…」
「でも?」
「私もそうなりたいと願っている」

ナンナの父フィンは間違いなく聡明な騎士だった。ラケシスというノディオンの獅子王の妹を妻に持ってもレンスターへの忠誠を忘れない真っ直ぐな騎士だとカリオンは感じていたが、ナンナはそんな父に対して冷たい態度をとっていた。
父としては間違っていたのかもしれないが、騎士としては間違いなく尊敬に値する人物だとカリオンは思う。

「君は…その、この戦いが終わって平和になった時…どうするんだ?」
「……考えてないの。生き残れるかも分からないし、したいこともないし…」

ぱちぱちと薪が燃える音が静かな夜に響き、静寂を優しく包み込む。その赤い炎の存在が二人の間に流れる冷たい空気を繋げていくように温もりを届けていた。名前は炎に当たる足が熱くなるのを感じておもむろに焚火から距離を取ると、カリオンは不思議そうに彼女を見つめた。

「ちょっと、熱くて…」
「そうだな。名前の方が風下のようだから、もう少しこちらに寄った方がいいんじゃないか」
「あ…ありがとう」

今までにないほど近い距離に名前は顔に熱が集まるのを感じた。熱いのが足でなくなってしまったが、幸いなことにも炎の色で誤魔化せる、と彼女は横目でカリオンの横顔を伺うと彼は物憂げな顔で赤い火を見つめていた。
赤はアルヴィスの色だ、とカリオンの瞳に映る炎を見て名前は感じた。初めてアルヴィスと会った時に感じた赤色の存在感。忘れられたくても忘れられないほどその色は名前の中に深く染み付き、彼女自身も自分は赤色に生まれた人間だと考えていた。

「名前?」
「えっ…?何?」
「私をじっと見ていたから…何かついているのかと思ったんだ」
「あ…ごめんなさい…。貴方の目に、映っていたから…」

目に?とカリオンが疑問を口にすると、名前は静かに頷いてアルヴィス様の色が、と小さく呟いた。彼は炎を見つめ、赤髪赤眼で神器ファラフレイムの使い手を思い浮かべ、もう一度名前へと視線を移した。

「君は違う」
「違う…?」
「ヴェルトマーでも君と皇帝は違う。だから、名前が皇帝になることはない」
「カリオン……」

この戦いが終わってヴェルトマー家が平和に生きていける保証はなかったが、カリオンは彼女の幸せを願った。炎の一族に生まれたことを悔いることなく、普通に生きていけるように。普通の幸せを掴めるように。