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消えかけた祖国の炎をなんとか潰えぬように精進してきた。それはいつか帰る主君のためでもあり、自分のためでもあるのだと彼はふっと息を吐いた。グルニアから離れてから、黒騎士団を導いてきた光を見失ってから、どのくらいの月日が経ったのだろう。
ロベルトもライデンも、アリティアの王子マルスが指揮する軍に身を置いてからカミュのことを口にすることが少なくなったが、それはこの軍が彼と一戦を交えたこと、そして突然現れた仮面の騎士の存在が理由になっているのは明確だった。
「ベルフ…さん?」
「……えっ?私を呼びましたか?」
「はい。考え込まれているようだったので…」
お邪魔でしたらごめんなさいと彼女は目を伏せた。名前はアリティア王子マルスの近衛隊長であるが、ベルフは彼女に対してそれ以上の情報を知らなかった。彼女がアリティアの皆と共にいることが多かったこともあるが、周りに気を配るほど余裕がなかったのかとベルフは自分が追い詰められていることに初めて気がついた。
「いえ、そんなことはありませんよ」
「そうですか…?私で力になれることなら何でもするので、頼ってくださいね!」
「えっ、名前さんに?」
「で、出来ることならお手伝いしますので…!」
マルス王子の近衛隊長は軍の皆に声を掛け、様々な国から集まるこの軍を一つにまとめていた。マケドニア王女やアカネイア騎士、グラ王女など各々事情がありこの軍に身を置いている。グルニア騎士である彼らもそれは例外ではなかった。
名前は彼らに何の隔たりも感じることなく接し、グラ王女シーマやマケドニア王女ミネルバすらさも当たり前のように互いに話す姿が見受けられる。彼女の話術は一体何なのだろうとベルフは半信半疑で彼女と話を続けていた。
「そう…ですね。名前さんに、出来ることで…」
「話し相手くらいにしかなれない…ですかね…でも、それでも良いんです。グルニア騎士の皆さんはこの軍に来てまだ短いですから…」
「お気遣い頂きありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですよ」
「そんなこと、ないです…!カミュ将軍は………」
はっ、と名前は口を噤んだ。それもそうだ、カミュという存在はグルニア騎士であるベルフにとって特別なものだった。ベルフだけでなく、ロベルトにもライデンにも、カミュという唯一無二の存在は大きなものであった。その指標を見失った彼らが進む道の仄暗さは計り知れないはずなのに。名前はなんて余計なことを言ってしまったのだと後悔し、きゅっと目を瞑った。
そんな彼女の様子を見ていたベルフは、驚くこともなくふっと目を細めた。
「名前さん、気になされないでください。これは遊びではなく戦いですから…」
「ベルフ、さん……」
「あの方は確かに、我々グルニア騎士にとって尊い存在でした。ですが、その信念が消えることはありません。カミュ隊長がいらっしゃらないのなら、私たちがそれを継ぐまでです」
返ってきたあまりに真っ直ぐすぎる言葉に、名前は目頭が熱くなるのを感じた。彼は柔和で温厚だが、隠された熱意と主への敬意こそが彼とグルニアを強く結びつけている。目に見えないその感情を保ち続けることがどんなに難しく、そして美しいものか彼女は知っていた。
「名前さん…?」
「あ、その、すみません…。感動してしまって…」
「そんな…騎士なら当たり前のことですよ。きっとロベルトとライデンも、そしてアリティアの皆さんも私と同じことを言うと思います」
「でも、ベルフさんが……」
「私が…何でしょう?」
あまりも切なげに遠くを見ていたから、と名前が涙を流すと、ベルフは困ったように笑い、素直な彼女も自分と同じような立場になった時はきっと主君の意を汲む選択をするのだろうと考えた。正体を隠してこの軍に参加するある人の姿を思い浮かべ、ベルフはゆっくりと瞬きをして目の前の名前を映した。
あんなに思い詰めていたのが嘘のように心が穏やかだ、と彼は目元を擦る彼女の手を取った。
「えっ…」
「貴女は不思議な人ですね」
「ベルフさん…?」
「まるで…」
頭に疑問符を浮かべて瞬きをする名前に対し、ベルフは笑顔を見せた。
まるで太陽のようだ、と。
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