優秀な彼女から魔物が可愛い、と聞いてから何とか可愛いと思うように心がけていたがやはり私には無理だった。スケルトンやモーサドゥーグはまだしもゾンビやバールは耐えられなかった。全く可愛くない。
「いえ、可愛いですよ。名前は私が認める優秀な方なのに理解頂けなくて残念です」
「ゾンビやバールもか?あれはないだろう」
「ケルベロスは可愛いですよね」
会話が噛み合わないのはいつものこと。もしかしたら彼女もゾンビやバールは苦手なのだろうか。しかし、蜘蛛が苦手なアスレイのために蜘蛛を集めたという話を聞く限りは苦手という訳ではないであろう。
「精々アスレイの蜘蛛嫌いを治してやってくれ」
それじゃあ、とルーテに別れを告げると向こうも納得したのか、はい。さようならと言って砦の方向へ歩みを進めていった。
一方の私は一人外に残り思慮に耽ることにした。やっと黒幕が判明した。だが、もしかすると指揮官が飲み込まれる可能性のある、厄介な敵であった。
現にエイリークは聖石を渡し、破壊されている。親友を信用するのは当たり前かもしれないが、それにしても重要な聖石を渡してしまうなんて私には考えられないことだった。
「どうした?」
「いや、少し考え事をしていただけだ」
「リオン皇子のことだろう?」
「ああ…ヨシュア。お前ならあの時どうしていたと思う?」
あの時、それはエイリークがリオンに紛した魔王に聖石を渡した時だ。ヨシュアはそれを理解したのか、少し時間を置いてから重い口を開いた。
「相手がお前さんなら、わかんねぇかもな」
「どういう意味だ?」
「長年の付き合いでも、ケセルダには幾らせがまれても渡さねぇと思うが、魔王に支配された名前が助かるなら渡しちまうかもしれないってことさ」
つまり、エイリークは渡すべくしてリオンにあの聖石を渡したと言いたいのか。あれは彼女の知るリオンではなかったというのに。そう考えると、まだ納得は出来なかった。聖石がどれほど重要なものだったか、と私が腕組みして考えていると、そういや、とヨシュアが続けて口を開いた。
「確かエイリーク王女の恋人だったんじゃねぇのか?リオン皇子は」
「リオンは好意を持っていたようだが、エイリークがどう思っていたかまでは知らん」
「ああ、そういや魔王がそんなこと言ってたな」
もしも仮にヨシュアが魔王に冒されていて、自分の持つ大事な聖石で彼を助けられるかもしれないとわかれば、私はどうしただろうか。突然訪れる状況、深く考える時間もないあの雰囲気では、自分も渡してしまうような気がした。
「エイリークのことを、責めすぎたかもしれない」
「何か思い当たる節でもあったのか?」
「もし私が彼女の立場ならやりかねないと思ったからだ」
「へぇ、意外だな。因みにその時の相手は誰を想像してたんだ?」
私の反応を楽しんでいるのか、ヨシュアはいつもの悪戯っぽい瞳でこちらを見ていた。それならば、と私も反攻することにした。
「コインで賭けて、お前が勝ったら教えよう」
「お、名前が賭け事なんかどういう風の吹き回しだ?珍しいこともあるもんだな」
「いいから早く投げろ。イカサマは無しだ」
はいはい、とヨシュアはポケットに手を入れコインを出した。長年使っているものらしく、ところどころに傷がついていた。
彼が賭け事に嵌まったのはいつからだったかと考えていると、選択を迫られた。
「表だ。早く開け」
「………そら、裏だ。イカサマはしてないぜ。俺にツキがあったってことさ。誰なのか早く言えよ」
イカサマをしていないことは確かだった。悔しさと恥ずかしさで私は口をつぐんだ。おそらく彼は勝ち誇った笑みを浮かべているに違いない。
「おい、名前…」
「お前だ!このばかもの!」
そう言って私は砦の方へ走り去ってしまおうとしたものの、いとも簡単に腕を掴まれて引き寄せられた。恥ずかしくてヨシュアの顔をまともに見ることが出来ない。
「そんな顔、俺以外の奴には見せるんじゃねぇぞ」
こっそり耳元で囁かれた甘い言葉は、私が彼に嵌まっていく序曲だったのかもしれない。
(黙れ!)(おっと、未来の王女が口悪いな)(必ず仕返ししてやる)(ああ、楽しみに待ってるぜ)(……)
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