サカの風は、とても心地好い。私が旅してきた中で、最も自分に合う土地のような気がする。スーが前からサカのことを教えてくれていたせいか、多少懐かしく感じるところもあった。
「あなたは、サカが好き?」
「…ああ」
「私にとっての故郷はここではないけれど、サカの大地は私を歓迎してくれた。すごく素敵なところなのね」
ルトガーはただ私の隣にいるだけだったが、醸し出すオーラはいつもの刺々しいものではなく、柔らかいものだった。
彼もサカをとても愛しているのだということが私に伝わってきた。
「ねぇ、ルトガー。あなたはこの戦いが終わったらサカに戻るの?」
「…わからん。お前はサカに来るつもりか?」
「いいえ。もう少し旅をしてみたいの。この軍に参加して様々な人と出会って、私はたくさんのことを学ぶことが出来た。だから、尚更他の地へ行きたいの」
「そうか」
イリアに友人も出来たから復興作業を手伝おうか、それともベルンの復興を進めようか。私には様々な選択肢があった。ルトガーは私の考えにさほど驚きはしなかったようで、凜とした表情を続けていた。
「ルトガーはどうするの?」
「決めかねているところだ」
「サカとベルン、どちらに戻るかということ?」
それからルトガーは口を閉ざした。彼はベルンとサカの親を持つ混血だと聞いたことがある。だがベルンをひどく憎んでいるため、ベルンと敵対する私たちの味方となったのだ。故郷が2つあるというのは、どちらとも故郷であると同時に、どちらにも属さないことでもある。彼の中に流れるベルンの血は、憎む彼をどう感じているのだろうか。
「ごめんなさい。答えにくいことを聞いてしまったようね」
「…いや、お前が気にすることではない」
いくら憎んでいるからといって、ベルンも彼の祖国であることに変わりはない。おそらく、大きな葛藤が彼の中に渦巻いていることだろう。私には祖国というものがないのでその思いを汲み取ることが出来ない。ルトガーが辛い思いをしているのに理解出来ない苦しみが私を占めていた。
「なぜ名前がそんな顔をする?」
「…え?」
「これは俺の問題だ。お前が気に病む必要はない」
「それは、そうだけれど……でも、あなたは……」
彼が答えようとすると、びゅうと音がするほどに風が強く吹き、私たちの髪の毛を揺らした。強い風に目を瞑り、乱れる髪を手で抑えるので精一杯で私は彼の言葉を聞くことは出来なかった。
「ごめんなさい、聞こえなかったからもう一度言って?」
「…これ以上、俺には関わるな」
サカの大地がルトガーの味方をしたのか、丘からの風が再び私たちの間に流れた。今度は弱いものだったが、それでも私は彼との壁を感じずにはいられなかった。
「あなたの苦しみを理解することが難しいことくらいわかっているけれど、それでも、あなたの世界を守りたいの」
「……俺の世界、か」
無言の時が続いた。
言葉では伝えられない何かが、私たちの間に生まれ、私はその一時でほんの少しだけ彼の世界に触れることが出来たような気がした。
そしてそんな私たちの間をいくら時が流れても変わらぬサカの風が、優しく撫でた。
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