やっと軍での存在を認められたかと思ったら次はこれか。俺は本日何度目かわからないため息をついた。

「速さの高い相手に慣れるべく貴様に稽古をつけて欲しい」

自分の能力を買われて悪い気はしなかったので二つ返事で承諾しようかと思ったのだが、良く考えて口を開くことを躊躇った。
速さに慣れるということはつまり、俺が名前の弓を受けるということで。

「それってもしかして、」
「察しが良いな。それならば返事を早く出せ」
「おいおい、そりゃ困るって。俺の命が持たねぇよ」

頼むよといった風に両手を振ると、名前は眉間に皺を寄せた。それで諦めたのだろうか、じゃあもう結構だ。と彼女は背を向けて歩き出そうとしたが、一度振り返って俺に視線を合わせた。

「ならばコーマとやらに頼むことにしよう」
「ちょっと待て。なら俺がやる」

わざわざ年下に危ない橋を渡らせるなんて、と思い引き受ける旨を提示した傍から後悔したものの、男に二言はないなと念を押されてしまっては、こちらも応えるしかない。俺はため息を隠しながら仕方ない、と呟いた。そこで冒頭に戻る。

「私の弓からは逃れさせないぞ。弓の種類は銀の弓にするか?それとも勇者の弓にするか?」
「お前…それ本気で言ってんの?」

冗談半分なのかそうでないのか紙一重で判別出来ない状態である。無論彼女の受け答えはいつもそんな感じであるのだが。
冷や汗を篭めた俺の言葉に名前は少し口元を緩ませて、冗談だ。鋼の弓に決まっているだろう。と言った。

こいつが笑うのなんて初めて見た気がする。そんなことを考えているのもつかの間稽古が始まり、命の危機に陥ったものの間一髪回避した。
本気で俺の命を狙ってるんじゃないかと思うほど危険なこともあり、あと一本で終わる、と言われた時はどんなに安堵したことか。



稽古が終了して別れた後、名前は同じ弓の使い手であるネイミーと話し始めた。彼女が同性と話しているところを初めて見た俺は、二人の会話に聞き耳を立てた。



「お疲れ様でした…。さすが名前さんですね…すごい腕前です…!」
「お前にも稽古をつけてくれる盗賊がいるだろう」
「あ、いえ…稽古をつけたい訳ではなく……やっぱり、普段使わない弓を使った方が…いいんですか?」
「なぜそのようなことを?」

弓?と俺は耳をそばだてた。普段使っている弓は鉄の弓だが、稽古の時は何を使っていただろうかと記憶を辿るが特に注目したことも無く思い出すことが出来ない。

「だって名前さん…普段は鋼の弓、使わないから…」
「……鋼の弓の方が命中率が低いからな」
「もしかして…レナックさんの、ため…ですか?ふふ…優しいですね……」
「好きに考えておけ」

その時の名前にいつもの堅苦しい雰囲気はなく、ごく普通の女の子の柔らかさを有していた。また俺のことを思って普段使用しない武器を使っていたことにも驚愕した。
そして俺は柄にもなく、柔和な微笑みを浮かべたその優しい表情に一目惚れをしてしまった。

「あれ…レナックさん…?」
「………まだ私に用でもあるのか」

再び堅固な雰囲気を纏った彼女を目の前に、必ずこの女を落としてみせる。そう俺は決心した。