優しい日差しがフウマの竹林へと差し込む。白夜王国と暗夜王国、二つの大国が睨み合う戦争が終結してから数年後、名前は白夜王国から援助を受けながらフウマ公国を再び立ち上げた。白夜に住むものからの批判があることは承知していたものの、代々続いてきたフウマの名をこれ以上途切れさせるわけには行かない、と彼女は白夜との親交を約束し、独立を決意した。

幸福も絶望もこの国で全て直面してきた。もはや怖いものなどないだろう、と名前は日差しの眩しさに目を閉じた。

「名前さん」
「スズカゼさん…」
「こちらにいらしたのですね。皆さんがお待ちでしたよ」
「はい…。ようやく戻るのです。フウマが、再び…」

以前のように表立って中立とは謳えなくなるが、それでも構わないと名前は考えていた。元より中立といえど、東の白夜王国との付き合いの方がずっと長かったのだ。今更そう変わるものではないと。
それに、と彼女は隣に立つ緑色の忍を見上げた。彼がいるのだから、どんな国になってもきっと平和を貫ける、と遠い未来に思いを馳せた。

「名前さん…?私の顔に、何か…」
「いえ…。これからやっと始まるのだと、実感していたのです。スズカゼさんには本当に、感謝しています…」
「私の力など大したものではありません。全て貴女の働きです。きっと、先代もお喜びでしょう」
「父のように偉大で、叔父のように…強い国に、したいです」

今度こそ、と名前は竹林へ祈るように手を合わせて目を閉じた。そんな彼女をスズカゼは優しい眼差しで見つめていた。側で見てきたフウマの公女が、女公として即位する日が近づいていることに嬉しさもあったが、同時に寂しさも感じている自分がいる、とスズカゼは浅はかな自らの思考を振り払うように竹林へ差し込む光を見つめた。

かつて顔を合わせたフウマの大公は温厚かつ聡明で、部下からの信頼も厚い人物であった。その大公が前公王のコタロウに討たれてから、フウマに流れる空気は大きく変化したのだ。そしてその名が潰えて数年、再びこの地に国が蘇ろうとしている。

「名前さん」
「はい、スズカゼさん」
「幾分か昇進したといえど、私はまだ白夜王国の忍の身分です」
「…はい」
「ですが、いつか…いつか必ず、手放しで此処へ参ります」

スズカゼは名前の手に自身の手を重ね、彼女と視線を合わせた。彼女はスズカゼの真剣な眼差しに応えるようにその手を握って微笑んだ。
叔父のコタロウは国を大きくしたかった、フウマを強大な国にするのを夢見ていただけなのだ。それが間違った方向へ進んでしまい、災厄を招いてしまった。そんなこの国を正すのは自分しかいない。名前はスズカゼの緑色の髪に手を伸ばした。

「スズカゼさん」
「はい、名前さん」
「私はフウマの女公になります。もうこの国から逃れることは出来ません」
「ええ、そうですね」
「そんな私でも、この国でも、貴方は…」

構いませんか、と名前が口にする前にスズカゼは彼女の体を抱き締めた。彼女の問いはきっと自らの父のことを暗に意味しているのだろうと感じ、その問いから封じた。父はフウマ公王の手によって命を落としたが、それはこの国のせいでもなく、名前のせいでもない。兄サイゾウも頭では納得しながら今でもフウマをよく思わない現実がある。歴代のサイゾウの一派に含まれる忍は皆フウマ公国をよく思っていないのも、スズカゼは十分に理解していた。
それでも彼女と共にいたい、共に生きてきたいという気持ちが止められる理由にはならなかった。

「スズカゼ、さん…」
「たとえ非難されようと、私は貴女を愛しています。他の誰でもない、名前さん、貴女だけを…」
「……はい。私も、貴方が好きです。スズカゼさん。貴方のおかげで今の私がいます」

いつまでも待ちます、と名前はスズカゼの胸に頬を寄せると、彼は抱きしめる力を強めた。そして必ず此処へ舞い戻るという決意を込めて、名前へと口付けを落とした。