突然の雨。私は顔を上げて雨粒の落ちてくる灰色の空を見上げた。
最近思いつめることが多く、部屋に引きこもりがちだった。久しぶりに外へ出たと思ったらこの雨で、ついてないと思いきや私は喜びを感じていた。
ぽつぽつと降っていたはずの雨は気付けば大粒の雨に変わっていて、私はずぶ濡れになっていた。

「雨のおかげ…ね」
「名前。こんなところにいたの…って、ずぶ濡れじゃないか!」

私を見つけて急いで駆けてきてくれたのか、レオンにも雨粒がついていた。私のは最早雨粒とは言えないほど濡れていたが。
雨水を吸った服はずっしりと重く、私の体を包んでいた。

「これでは風邪を引いてしまうよ。早く戻ろう」
「レオンさん、私は大丈夫です。まだもう少し此処にいさせてください」
「はぁ…そこまで言うなら僕も此処にいるよ」
「どうして…あなたまで?」

彼は一瞬不思議そうな顔をして、ため息を吐いた。当たり前だろう。それが僕の務めなのだから、と。それを言うなら私の立場のはずだが、今更気にすることはなかった。
空から落ちてくる水滴は私たちをひたひたと順調に濡らしていく。

「前からだけど、名前は雨が好きだよね」
「はい、こうして雨粒を受けると、天の偉大さと、自分の存在を同時に感じることが出来ますから。」
「…うーん…。難しいな。名前の存在か。僕にとってはかけがえのないものなんだけど…」

レオンが珍しく素直に気持ちを伝えてくるものだから私は少し驚いた。いつもであれば私のこのような言葉は軽く受け流すはずなのに、これもまた雨という天からの贈り物のお陰なのだろうと都合よく捉えることにした。
ふと西の空を見遣ると、不思議と赤い太陽が見える気がした。どうやらもうじき雨は上がるようだ。

「ん?ああ…もうすぐ上がるのかな」
「少し寂しいです。恵みの雨が終わってしまう…」
「そんなのまやかしだよ。雨は暗夜では悪いことの前兆とか、良くない印象しかないし」

暗夜では雨が降っても育つ作物は限られているし、天からの恵みという感覚はないようだ。暗い空が泣いていることが果たしてそんなにも悪いことだろうか。人間もまた、涙するのは悲しい時だけではないはずなのに。

この国の人々が何事も暗く考えがちなのだということは既に周知の事実であるのだが、自国のしきたりや言い伝えに陶酔しすぎる面がある。

「レオンさん、そんなことはありません」
「え?何が?」
「雨は冷たい時もあるけれど、優しい時もありますから…」

私は知っている。この世界がこの国だけでないことを。この国の人々が、どんなに狭い世界で生きているかということを。
だからこそ伝えたい。彼に自分の知る光の世界を。向こうの空が茜色から紫色に染まる、美しき世界のことを。

「名前…どうしたの?何かあった?」
「もっといろんな景色を見に行きましょう。この世界は広いですから…」
「そうだね。その前に名前に風邪をひかれると困るから……って、ほら、全く…。言ってるそばからくしゃみしてるじゃないか。そろそろ帰るよ」

差し伸べられた手を取るとその手は私のものより幾分か温かく、彼は冷たいと言って眉間にしわを寄せた。
そう、雨は悪くない。こうして彼が迎えに来て、手を取ってくれるのだから。

でもいつの日か、光り輝く世界で彼と共にいられたのなら、また変わるかもしれない。とうに諦めていた夢や希望が膨らむことが不思議だった。
レオンは私の希望。
彼が、私を光と言ってくれたのと同じように。