僕の手は血に塗れていた。そして、目の前には血を流して倒れる君。僕が君を討ったのか?なぜだ?なぜ君を倒さなくてはいけないんだ?

「名前…僕は…僕は…!」
「タ…クミ……良かったの…これ…で…」
「だめだ、死ぬな…!名前!お願いだ!目を開けてくれ!名前!!!!」
「あり…がとう…」

薄目を開けて僕に微笑む名前を抱きしめて、僕は彼女の名を叫んだ。何も出来なかった。僕は非力なまま何も変われなかった。世界で一番大切な人を守れなかった。

暗夜で見たことがないという夕焼けを、朝焼けを、光り輝く海を、見せてあげられなかった。戦いの最中だからと断らずに手を引けば良かったのに。

後悔の波が押し寄せて言葉が出ない。苦しくてたまらない。もう君はいないんだ。僕の愛した君は―――






「…ミ!タクミ!?」
「ん……あれ…僕は…?」
「もう、無茶しすぎよ。鍛錬の途中で倒れたって聞いて飛んで来たんだから」
「名前!?怪我は無いか!?」

がばりと体を起こして彼女の腕を掴むと、なんで私が怪我するのよ、と名前は落ち着いてと笑った。そこで僕は先ほどの映像が悪夢だったのだと気が付いた。まるで現実に起こったかのように鮮明で血の臭いもはっきり感じたのに、僕の両手に鮮血が付いていた様子は無かった。

「どうしたの?そんなに顔を青くして。嫌な夢でも見た?」
「まぁ…そんなところかな。ところで名前、丘に行かないか?見せたいものがあるんだ」
「ええ!?タクミ、今さっき倒れたばっかりなのよ?また無茶して倒れたら…」
「今じゃないとだめなんだ。行こう」

少しフラつく頭を切り替えて、僕は名前の手を取った。
この戦いがどんな終わり方になったとしても、後悔はしたくない。君が隣に居てくれる間に、君との思い出を全部作りたい。
無茶でも構うもんか。君と見る景色が美しいなら、こんなの無茶の一つにもに入らない。

「ちょっと…タクミ!どうしたって言うのよ!」
「いいから、ついて来て」
「日が暮れる前には戻りましょう?」
「そうも行かないんだけどね」

分からない、という顔をする名前の手を離すことなく、僕は丘の頂上へと続く道を歩いていた。もうじき夕焼けの時刻になる。暗夜で過ごした君はどんな顔をするだろうか。喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えつつ足を進めていると、僕達は頂上へと到着した。

「はぁ…疲れた…一体ここに何があるの…?」
「もうすぐだ…」

そしてその時は来た。空が橙色に染まり、夜の帳が落ち始める。隣に立つ名前の表情を横目で確認すると、彼女は空に目を奪われているようだった。彼女の目はきらきらと光りその色を映している。僕はその瞳の輝きに満足して、繋いだままの手を強く握った。

「なんて綺麗なの…?白夜の光は…」
「これを名前に見せたかったんだ。間に合って良かったよ」
「ありがとう…タクミ…」

悪夢になんて負けないさ。君がいればきっとどんなことだって乗り越えられる気がしてくるよ。二度とあんな顔はさせないから。
名前の笑顔は、僕が守る。そう夕焼けに誓って、僕は息を深く吐いた。