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暗夜王国の人間に親を殺され、孤児となった同じ境遇の私たちは昔から仲がよかった。歩む道が分かれてしまったのは、思い返せば結構前のことになるのだが、私にとってはつい最近のことのように思える。オボロが兵士になるなんて言い出したことから始まった。
「えぇっ?ちょっとオボロ、どういうこと!?勝手に試験受けたって…えぇっ!?」
「何よ。この前だって言ったじゃない。合格したら、晴れて国城兵になるのよ?」
「そ、それはそうだけど…私はどうしたら…」
「それなら一緒に鍛錬する?」
オボロに言われて自分に合う武器を見つけるべく一緒に武器屋へと向かったのだが…。
剣を振ってもダメ、槍もダメ、斧は重くて持てず、弓も放てない。魔法も合わず、最後の頼みで暗器を使うも的には当たらない。
結局私には武器は持てないということをオボロにも諭され、共に歩む道として給仕の仕事に就くことを決めたのだった。
「始発点が既に、オボロの方がずっと前にいたから…。私はその背中を追うことしか出来なかったんです」
「うーん。深く考えすぎじゃねぇかな。別に武器なんか持たなくても、名前とオボロの信念は同じだと思うぜ!」
「…私、怖いんです。いつかオボロが…ヒナタさんが、帰ってこなくなるんじゃないかって。ここで待つのが、怖くなるんです。何も出来ないから、苦しくて…」
「何言ってんだ!そんな顔すんなって。帰ってこないわけないだろ?そのために俺たち毎日鍛錬してんだから!」
ヒナタさんもオボロも強い。これまで幾人もの敵を倒してきたことは周りから聞いて知っている。敵と交えることが多い分、傷を負うことも増える。この前オボロが深手を負って帰ってきたときは、血の気が引いて倒れそうになったところをヒナタさんに助けてもらった。
「んな顔するな!絶対帰ってくるって約束する。名前を一人になんてするわけないだろ?」
「…ヒナタさんだって、最近は深い傷も増えてて…私……」
「待っててくれよ」
こちらに向いたヒナタさんはいつもの優しい太陽のような笑顔ではなく、真剣な表情だった。この人が帰ってこない日々がもし来たらと思うと、胸が締めつけられる思いだ。想像しただけで苦しくて涙が出そうになる。
もう十分待った。いつだって帰ってくるのを待つだけしか出来なかった私も少し変わった。
「私、杖が少し…使えるようになったんです。だから、私も…」
「名前を戦場に連れていくなんて、オボロが許すはずないぜ?名前は…ここで俺たちの帰りを迎えてくれよ。帰ってくる場所に名前がいない方が、俺は辛いんだ」
「どうして…どうして、私はダメなんですか?もう待つだけなんて嫌なんです!」
ヒナタさんは切なげな表情を見せて、私を優しく抱きしめた。まるでその瞳は泣いているようで、私の心がずきんと傷んだ。
足手まといになって、私が先に敵に狙われるかもしれない。敵に狙われた私を庇って、誰かが犠牲になるかもしれない。
もし、それが私の大切な人だったら?
戦場は私が考えるほど甘くなく、常に死と隣り合わせだ。少し軽視しすぎていたのかもしれない、と私は先程のわがままな言葉を後悔した。
「…ごめんなさい…ごめんなさい、ヒナタさん…私…全然分かってなくて…」
「俺も…名前はここで待ってろなんてばっか言って悪かったな。待つことも、名前の強さの証拠だぜ?俺じゃ絶対に出来ないことだ」
「待つことの、強さ…」
「そう、それだ!だから名前はここにいてくれよ。俺とオボロと、帰ってくる皆のために。な?」
そう言ってにっこり笑うヒナタさんの笑顔は、寂しさで穴の空いた私の心を埋めていった。彼が帰ってきてくれれば、きっと私も待っていられる。
そのために、私は私に出来ることを精一杯しよう。武器を持たずに戦う方法を見つけよう。
「約束、します。私…待ちます。だから…帰ってきてくださいね…。ヒナタさん」
「おぅ!当たり前だ!俺もオボロもタクミ様も、負けたりしねぇからな!」
彼の笑顔で満たされた心は、私に勇気を持たせてくれた。彼らを待つことは非常に不安と恐怖に苛まれるが、いつでも彼のくれた言葉を思い出せる。
明日も待つんだ。私にしか出来ない、「おかえり」を言うために。
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