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就いてみて初めて分かったが、給仕の仕事もなかなか楽なものではない。もちろん兵士達と違って命の危険がある訳では無いのだが、要領が悪く体力もない私にとってはこちらの仕事も非常に骨が折れることだった。
「名前!何してるんだ!それはあっちの倉庫だろ!」
「す、すみません…!今、持っていきます!」
「ああ違う!そっちじゃない!」
武器の整理、食事の支度、洗濯、掃除…やることが毎日山積みで終わるとくたくたになるものの、戦いに疲れて帰ってくる親友と大好きな人のために、私は必死に働いていた。
「はあ、オボロとヒナタさん…そろそろ帰ってくるかな…まだなのかな…」
「オボロ殿のことを敬称も付けずに呼ぶとは情けない給仕がいるものだな」
「ああ、こいつオボロ殿の幼馴染みなんだとか。いくら仲が良くても向こうの位は高いんだ。付け上がるなよ?」
同僚に注意されるのもこれが初めてではない。オボロと仲が良いから上の人から優遇されている、と他の給仕から邪険に扱われることもあった。
それでも、私は折れちゃいけないんだ。オボロだって戦ってるんだから、私が負けちゃだめ。
いつも自分に言い聞かせて乗り越えていた。
「救護班急げ!早く!」
「何かあったのか?」
「さあな。こっちには関係ないことだ」
外が騒がしい。バタバタと人が走る音が聞こえる。給仕の同僚は『関係ないことだ』と冷たく一刀両断しているが、救護班を呼ぶということは誰か大きな怪我を負った人がいるのだろう。
まさか。
私はぶんぶんと頭を振って、そんなわけない、オボロが、ヒナタさんが、重傷なんてそんなわけない、と言い聞かせたが、やはり居てもたってもいられず救護班を追いかけた。
「あ、おい名前!まだ途中だぞ!」
普通に仕事をするなんて出来なかった。今日は些細なことでオボロと口喧嘩をして、二人に行ってらっしゃいって言えなかったんだ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私が走ってその場に向かったが、背の高い救護班に周りを固められていて誰なのか分からない。歩けないほどの重傷なのだろうか、私の目には涙が浮かんでいた。
「名前?」
不意に肩を叩かれて呼ばれた名前。驚いて息を呑んだが、その声は聞き慣れた人のものだった。
「え…あ……」
「おいおい、どうしたって言うんだよ!」
大好きな人の顔を見て安心して涙が止まらなかった。そんな私を見てヒナタさんは少し困っていたけれど、俺もオボロも大丈夫だと私の頭を優しく撫でてくれた。
ヒナタさんの話だと重傷で戻ってきたのはリョウマ様の小隊の一人だったようで私とは面識がなく、その言葉通り顔を伺っても誰なのかはわからなかった。
「ヒナタさん、オボロは…」
「そろそろ戻ってくると思うぜ!途中でノスフェラトゥが出てきて別れちまったけど、あんな雑魚にやられる奴じゃねぇからな」
「そう…ですね…」
もしオボロが戻ってこなかったら、私はこれからどうすればいいんだろう。大好きな親友、ここまで導いてくれた人。大好きな人に会わせてくれた人。応援してくれた人。
彼女のことを思うと、止まったはずの涙が再び溢れてきた。
「だーかーら、大丈夫だって言ってるだろ?相棒の俺が言うんだから間違いねぇよ!」
「…オボロ…帰ってきて…」
「ヒナタ…貴方また名前を泣かせたの?」
背後から聞こえた声。私達が振り向くと、少し汚れた甲冑に身を包んだ彼女の姿があった。いつもの声、いつもの姿。大きな怪我もしていない。
オボロの姿に私は駆け出し、彼女に抱き着いて本物だと確認すると余計に涙が溢れた。
「俺じゃなくてお前のせいだからな!」
「オボロ、良かった…良かったよ…私、私っ…」
「なぜ私なのよヒナタ。名前はちょっと待って!今は服が汚れてるから抱き着いちゃだめよ!」
いつもの風景、いつもの優しい、私の大好きな人たち。同僚に何を言われたとしても私は折れたりしない。負けないんだ。
「二人とも、おかえりなさい!」
「ただいま、名前」
「おぅ!ただいま、 名前!」
笑顔のオボロとヒナタに囲まれて、私は今日も幸せだ。どんなに辛いことも二人が無事に帰ってくれば幸せに変わる、まるで魔法のようにきらきら輝く時間。
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