※クリスマス=聖女エリミーヌの生誕祭という表記をしています
寒いね、と言われても私にはその気温に慣れているため大して寒く感じられなかった。その思いを汲み取ったのか、君には暖かいのかな?とおどけた様子で聞いてきた。
こんな会話をするようになって、どのくらいたっただろうか。故郷のイリアに着いても継続する戦争に、私は中々嫌気が差していた。
「エトルリアの冬はどうなの?」
「そうだな…僕の家の周りだと、気温は下がるけど雪はあまり降らないかな」
「雪が降らないって…砂漠以外にもそんな場所、あったんだ」
ふざけたような私の言葉にクレインは笑った。でもこの季節に雪が降らないなんて、つまらない。雪があってこその冬だ。無論、積雪量が多いのでその分イリアの春は1〜2週間と非常に短いのだが、厳しい冬の中で生きてきた私にとってはその短い春が特別な期間で、晴れ間にキラキラと輝く雪景色が大好きだった。
「今度、来てみるかい?」
「どこに?」
「それはもちろん、僕の家にさ」
驚いた。まさかクレインがこんなことを言うなんて思わなかった。私は彼の提案には是か非か返答できず、迷った。
正直、彼とは釣り合わない。クレインにその気がないにしろ、あの歳なら今の公爵様も爵位を譲ることを考えているに違いない。とすると、彼のパートナーを選ばなくてはならない。
クラリーネの性格からして両親はそう厳しそうではないが、私にはとてつもない不安があった。
「どうした?」
「……行けない。私はイリアの復興に努めたいから」
「そう、か……それは残念だな」
視線を落とすクレインを見て心が痛んだが、身分が違う彼と深く付き合う訳にはいかなかった。
彼は王子様。王子様には必ず、誰もが認める優しくて美しいお姫様が付き物だ。
「じゃあそのかわり、僕のお願いを聞いてもらってもいいかな?」
「お願い?」
「うん。名前が今一番欲しいものを教えてほしいんだ」
私が一番欲しいもの、そう言われても咄嗟に思い出す事柄はなく少し考えていた。
すると、何でもいいんだよ。と言われたので最初に頭を過ぎった単語を口に出した。
「平和」
「…うーん、申し訳ないけど、それは僕一人の力では叶えられそうにないな…」
「そうだよね。分かってる」
「今は叶えられないかもしれないけど、これから力を合わせて、一緒に叶えよう。僕と、君とで」
クレインの視線が至って真面目だったことにも驚いたが、私の答えに真剣に取り合ってくれることにも驚いた。それは誰もが望んでいることだ、と流されると思っていたのに。
「うん、ありがとう。でも…何でいきなりそんなこと聞いたの?」
「エトルリアのクリスマスでは、エリミーヌ様が皆の願いを叶えてくれるという言い伝えがあるからだよ」
「叶えるのはクレインじゃなくて聖女エリミーヌってこと?」
私の問い掛けには困ったように、君はエトルリア出身でもないしエリミーヌ教のシスターでもないけどクリスマスには願いが叶わない、とは思ってほしくなかったんだと言った。
良くわからなかったが、クレインは聖女エリミーヌに代わって私の願いを叶えようとしていたようだった。それならそうと言ってくれれば、もっと簡単な答えを用意すれば良かった。
「聖女が願いを叶えてくれるなんて素敵だね」
「そうだね」
「クレインの願いは?」
次は彼がうーん、と考えている番だったので、私も彼に叶えられるような単純な願いを頭に浮かべようと奮闘していた。
少しばかり集中していた矢先、不意に手が握られた。何かとクレインの方を見ると、再び彼が真剣な眼差しで私を見つめていた。
「クリスマスの夜を一緒に過ごしてほしいんだ」
「え?構わないけど…そんなことでいいの?」
「ありがとう…。嬉しいよ」
後からクラリーネに聞いた話だが、エトルリアではクリスマスの夜、愛し合う男女が一晩を共に明かすらしい。クレインの遠回しな告白に歯痒くなりながらも、私はその日を楽しみに待つことにした。きっとこの落ち着かない高ぶる気持ちは、クレインからの贈り物だと感じながら。
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