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いい加減無茶しないで、とレオが名前へと声を荒らげると彼女はいつもの無表情な顔で、どうしてと言葉を返した。どうしてじゃない、と再びレオは怒りを顕にしたが、変わらない表情を見せる名前を見てため息を吐き、感情を押し殺した。
「あんたね、なんで一人で突っ走るの?敵をしっかり見極めてから行きなさい、死ぬわよ!」
「死んだって構わない」
「名前!」
「レオはどうして私に死んで欲しくないの?これっきりの出会いを、そんなに大切にする必要があるとは思えない」
彼女は自己犠牲の塊というよりかただ単に無謀なだけであった。命の重みを分かっていながら、自分のそれを大切には思えない。どうにか分からせないと、と思いつつ戦場でそれを教示するのはなかなか難しく、レオはただ彼女が無茶をしないよう見守っていたのだが、如何せんその数が多いのだ。
見守るどころか自分まで窮地に陥りそうになったことも数知れず、いよいよ寛容なレオの堪忍袋の緒が切れてしまった次第である。
「あんた、ばかじゃないの?アタシはあんたが心配だからこうして隣にいるんでしょうが!名前が死んだら困るのよ!」
「レオ?」
「あのね、この際だから言わせてもらうけど。家族がいないとか帰る場所がないだとかウジウジ言うんだったら、この戦いが終わったらアタシ達と一緒に来ればいいでしょ?あんただけが悲劇のヒロインにならないで頂戴!」
言いたい事を一気に発散したレオが名前の様子を伺うと、どうやら随分と驚いているようだった。何に対して驚いたのかは分からないが、彼女の心に響いたことは確かだという感触があった。
何も言わない名前だったが、レオもまた彼女の言葉を待っていた。それでも一人で特攻するというのなら力ずくでも止めてやると思いながら。
「レオ」
「何よ」
「こんな時、こんな気持ちの時には、なんて返事をするべきなの?とても温かくて、なんだか懐かしい…」
胸に手を当て目を閉じる名前の様子は、女性嫌いのレオの目にも非常に美しく映った。そしてその時、彼女は特別な存在だと彼は感じた。
「ふふっ、そういう時は、ありがとうって言うの」
「そう……ありがとう、レオ」
「どういたしまして。さあ、行くわよ。いい?次無茶することがあったら、アタシが力ずくで名前を止めに行くから覚悟しなさい?」
「うん、ありがとう」
恥ずかしいから何度も言わないでとレオが振り返ると、名前は笑顔を見せていた。それは彼が初めて見た彼女の笑顔で、そのあまりの愛らしさにレオは言葉を失った。
名前の笑顔をもっと見たい。そのために自分が彼女を守るのだ、とレオは決意した。
「ほら、早く。置いていかれるわ」
「分かってる」
「そんな顔出来るんじゃない…ずるい女ね」
「私、どんな顔してる?」
あっけらかんと尋ねる名前に呆れたレオは彼女の手を強く引き、自分の腕の中へと閉じ込めた。さそがしこの行動に驚いているであろう。どんな顔をしているか見たいけれど、それでは自分の心が持たない、とレオは名前の髪を撫でた。
「レオ…?」
「もっと笑って、名前。その方がずっと良いわ」
「うん、ありがとう」
「んふっ。もう、可愛いんだから…」
そんな二人の様子を、振り返ったバルボは嬉しそうに見つめていた。女性嫌いのレオが懇意にする娘はダッハの砦に匿われていた占い師。彼女の占いで一体何人の海賊たちが海を渡って村へとやって来たか分からない。彼女自身がバルボの仇相手かもしれない、と考えることもあったが、彼らの様子を見てその疑いは頭から消え去った。
レオと名前があんなに笑顔になってくれるのなら、自分の疑念は忘れよう、バルボはそう固く心に誓った。
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