>
不思議な子だ、と思った。海賊の砦に残されていた宝とともに発見されたその美しい女性は、どこか幼さを残しながらも優美な雰囲気を纏っていた。
一緒に来ないか、という我々の問いかけに彼女は目を伏せゆっくりと頷いた。
聞けばダッハの砦で占い師として雇われていたのだとか。女は全部売り飛ばすと思っていたのだが、彼女の占いが余りにも正確でそばに置かれていたのだと。
「ふぅん。あんた、名前だっけ?色々苦労してんのね」
「苦労なんてしてない。困ったことなんてなかった」
「はぁ?だってあんた、海賊たちに囲まれて生活してたんでしょ?なんで苦労してない〜なんて言うのよ」
「言いたい事が分からない」
本当に変な女だ、とレオは思った。海賊の砦でどんな日常を過ごしていたかは想像もつかないが、さぞかし辛い日々を送っていたのだろうと彼は考えていたのだ。無論そう考えていたのは彼だけでなく、この軍の皆がそうだったのだが、彼女は苦労はしていないと即答した。
「だって占い師をやめたらどっかに売り飛ばされてたんでしょ?逃げられなかったの?」
「やめる意味がなかったから。逃げることが出来ても、逃げたところで行く宛もないし」
「あんたと話してると疲れるわ…」
「無理しなくていいよ」
「誰のせいだと思ってんのよ!」
やってられないわ!とレオが背を向けると、彼女は黙ってその様子を見ていた。口数が極端に少なく、素性も自ら一切語ろうとしない、他人に興味の無い彼女をメイやボーイがどんなに打ち解けさせようとしても彼らでは敵うはずもなかった。
かといってレオが口達者なわけでもないのだが何故だか名前の隣にいることが多く、二人で話すことも増えていった。
「アタシは兄貴にしか付いていく気はないの!あんたにもそんな人が出来るといいんだけど」
「兄貴…?」
「えっ、ちょっとあんた、バルボの兄貴を知らないなんて言わないでしょうね!」
「バルボって、誰?」
表情一つ変えず悪びれる様子もなく尋ねる名前に、レオはため息を吐いた。兄貴を知らないなんて、と嘆くレオに対し、彼女からは謝罪の意も勿論ない。ただ彼の目を真っ直ぐに見つめているだけで、レオは全てを見透かすような視線が苦手だ、と思った。
「アタシの兄貴よ。バルボっていう、とっても強いアーマーなの。見たことくらいあるでしょ?」
「覚えてない」
「あんたって本当に他人に興味無いのね…。毎回驚くことばっかりよ」
「どうして興味を持つ必要があるの?」
またこの目だ、とレオはその瞳を見つめ返した。薄く澄んだ虹彩が美しく、この美貌に腰を抜かした海賊もさぞかし多かっただろう、と彼は想像した。しかしこの性格だ、男を楽しませることなど一切してこなかったに違いない。
「どうしてって、付き合う以上必要なことでしょ?」
「必要ない。知らなくても問題ないし」
「あんた、ずっとそうなの?海賊の砦に来る前はそんなんじゃなかったんでしょ?」
「……もう、村のことは全部忘れた」
目の色が変わった、とレオは名前の変化を見過ごさなかった。今まで話していてここまで彼女の目が曇ったのは初めてだ、と驚きつつ彼は更に問を重ねた。
知りたくなったのだ。彼女がどうして海賊と共にいたのか、今までどうやって暮らしてきたのか。そして、何故こんなにも彼女のことが気になるのか。
「そんなに辛いことがあったの?家族は?」
「もういない。全員海賊に殺された」
「あら…そう。悪かったわね、辛いこと聞いて」
まさか、とレオははっとして彼女の表情を窺ったが特に表情に変化はなく、かといってこれ以上軽率に踏み込むことも出来ず、核心を突くことは出来なかった。そして彼は流石に有り得ないと思ったのだ。ダッハ一味に家族を殺されたのに、奴らと共にいたなんて、そんなことがあるはずないと。
>
→