どういう理由か、彼女が解放軍にいる。さてはフォルスの仕業かとパイソンは同胞の姿を探したが緑色の髪のアーマーはどこにも見当たらず、彼は頭をがしがしと掻いた。
ふっと視線を送るとそこにはせっせと働く名前の後ろ姿が視界の端に映る。すると彼女は手を振ってこちらへ駆けてきた。

「パイソン!」
「なんだ?」
「別に用事はないけど、パイソンだって思って」
「あっそ。ところでお前、何でここにいんの?フォルスになんか言われたか?」

なんか言われた訳じゃないけど、と名前はうーんと言葉を濁して腕を組んだ。こんなひ弱な女が寄せ集めの解放軍にいて何か起こった後では遅いのだ。ルカやフォルスとて彼女に何もしないとは限らない、とパイソンは姿の見えない2人を思い浮かべた。

「いちゃだめ?」
「あのねえ…。解放軍はリゲルと戦争しようってんだ。お前に何かあったら俺、お前の親父に何て言えばいいのよ…」
「え…!?」

名前は目を丸くして驚いた後、突然ふふっと笑いだし、何事かと彼女の様子を見守っていると、やっぱりフォルスから何も聞いてないの?と同胞の名を口にした。

「フォルスが私のお父さんに、娘さんのことはパイソンが守るから大丈夫です!って真面目な顔で言ってたのに」

なんとフォルスが彼女の父に勝手に余計なことを吹き込んでいたらしい。あの野郎後で締めてやる、と思いつつパイソンは頭を抱えた。

「ふふ、そんなことパイソンは言わないだろうから、フォルスの一人芝居だって私は分かってたんだけど、そうかそうか!ってお父さんがフォルスと握手してたのがつい面白くて…」
「名前…お前さ、村に帰れよ。此処は遊びじゃない。俺がいつもお前を守れるとも限らないし」

大工出身でやる気も出さない自分が参加している手前、遊びじゃないなどと言えたことではないと思いながら、パイソンは名前の反発を牽制した。力がなくては戦うことすらできない。彼女は給仕としてこの軍に同行しており、専ら請け負う仕事は荷物や武器の整理、食料の調達であり、戦うことはしない。自分の身を自分で守ることすら出来ないのでは、とパイソンは怪訝な表情を見せた。

「帰らない」
「おい、名前…」
「フォルスが勝手にした約束だって分かってるけど、パイソンが守ってくれるんでしょ」
「だから、それが出来ないかもしれないって言ってんだけど…」

不機嫌そうな名前の表情に、参ったなとパイソンは静かにため息を吐いた。彼女との付き合いは長く、一度決めたことを曲げない性格なのは彼が良く分かっていた。さてはそれを狙ってこいつを解放軍に引き入れたのか?と緑の副官の顔を思い浮かべたが、そんな面倒な魂胆を持っている奴じゃないと首を横に振った。

「分かってるよ、お荷物かもしれないことくらい…。でも力になりたいの。パイソンもフォルスも必死にやってるのに、私だけ悠々と待ってられなかったから…!」
「まあ…俺が必死にやってるかどうかは別としてね」
「じゃあ私が戦えるようになればいい?昔、魔法の素質があるって言われたし、リュートさんに習えば…」
「いや、やっぱりいいわ。大人しく俺に守られといて」

戦えるようになれば戦場に立つことになる。そうすれば守らなくてはならない場面も、他の人間との接触も増える。長髪で愛想のない魔道士だっけ、とリュートの顔を思い浮かべてパイソンは何度目か分からないため息を吐いた。
他の男に習うのも、他の男に守られるのも気に入らない。村に帰らないというのなら側で大人しくしていられる方が幾分かマシか、と彼は名前が戦う様子を想像してしょうがないね、と彼女の頭を軽く叩いた。