序章




理由などなかった。ただ、貴方に会いたかっただけだった。あの日からぷつりと切れてしまった縁をもう一度結び直したかった。何をしているのか、元気で過ごしているのか、他愛もないことが知りたかった。

「ごめんなさい…レイモンド…。」
「…それを決めたのはお前の父だ。お前のせいではない。だが、もう俺の前に現れるな。」

本名は思う。自分が軽率だったのだと。彼らを守ろう、自分の命など捨てても構わないから、恩返しがしたいと自分勝手に動いたせいで更に彼を傷付けた。それが分かっていても彼女には諦められない理由と強い意思があった。

「レイモンド……!」
「…俺はレイヴァンだ。お前の知るコンウォルのレイモンドという人間は…この世にはいない。」

彼もまた、葛藤していた。かつて自分が好意を寄せた相手が数年ぶりに目の前に現れ、そして彼女の家こそが自分の仇相手であるという事実にどう向き合うべきか、深く思慮をめぐらす必要があった。
しかし彼にそこまでの余裕はなく、いっそこの懐かしい思慕ごと消えてしまえと彼女を視界から追い払いたいと考えていた。
そうすれば、すべてが丸く収まってくれるのではないかと。

「いいえ…貴方は何も変わっていない。私の知っている、昔の貴方のまま…。」
「…本名……」

切ないような、苦しむような表情で自分の名を呼ぶ彼に心が痛んだ。苦しんでほしくない、むしろ自分を討って楽になってほしい。そう思っているのに、何一つ明確な言葉になってはくれなかった。それは彼女自身、レイヴァンがそれを望んではいないことが心のどこかで理解出来ているのに他ならなかった。




top 戻る