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第2章 過去
第1節 ... 2years ago
2年前、コンウォル家があの地を去った理由を、私は知る由も無かった。しかしそれから父の羽振りが良くなったのは記憶にある。それからというものの私は父に過去を問い詰めることが度々あったのだが、明確な答えを得ることは出来ないまま時は過ぎていく。
「お父さん!いい加減に答えて。うちの家の繁栄とコンウォル家は関係あるんでしょう?」
「お前は家族を潰したいのか?」
「そうじゃなくて、知りたいの。レイモンドが何処に行ってしまったのか…。昔は家族同然に一緒に過ごしていたじゃない…」
「であれば聞くな。知る必要はない。何度も言っているだろう」
ピシャリと父に門を閉ざされ、その後質問を投げかけることは出来なくなった。母もそんな時は何も言わず父に寄り添うだけだったので、本名はコンウォル家のことについて両親へ訊ねることはなくなった。
しかし、彼の行方が気になってならない本名はこっそり両親の留守をぬっては何か情報がないか探す毎日だった。
「コンウォル家?ああ、あそこに住んでた家のことかい?大声では言えないんだけどさ、」
その日もまた両親は社交会に出かけていたため、近所に住むおしゃべりで有名な年配の女性へコンウォル家の所在について尋ねていた。この時ばかりはおしゃべりなのも有用だと思いながら。
大声では言えない、と言いながら自分の得ている情報を言いたくて仕方が無いという顔をしている女性へと本名は歩み寄る。
「どうやら騙されたか何かで、家が崩壊しちまったらしいんだよ。それで二人とも死んじまったんだって」
「えっ…死んでしまった…って、あの奥様が…ですか?」
本名は自分を朗らかな笑顔で迎え入れてくれた彼の母を思い出す。あの人が何故死ななくてはならなかったのか。騙した人を許せない、と本名は息を深く吐いた。
「そうそう。人の良い夫婦だったから騙されたんじゃないかって話だよ?あとあの家の若い娘はとっくに養子へ出されてるけど、息子はどっかを放浪してると噂だ」
「騙した人は…明らかになっていないんですか?」
「さあね…。その辺はあたしも知らないんだ。なんせ本人達が死んじまったから、話も聞けやしないしね」
肩をすくめて楽しそうに話す年上の女性に本名は僅かに嫌悪感を覚えたが、彼女を敵に回しては情報を得られないと分かっていたのでその気持ちを静かに飲み込んだ。
他人の不幸を笑うとはまさにこのことだと。
「では彼の行方も何もかも、分からないということですか?」
「そうだねぇ…。でも、そういうのはあんたの家の方が詳しいんじゃないのかい?懇意にしてたんだろう」
「それは…そうなのですが…」
まさかあんたの家が騙したんじゃないだろうねと、からから笑った女性に本名は愛想笑いで応えた。何も言わない両親を見ると、コンウォル家の崩壊の真相を知っているに違いない。しかし何かを隠していたとしても家族が彼らを騙すなんて有り得ない。本名は女性と別れた後に不安に駆られたが、態度の変わらない両親を信じるしかないと高ぶる気持ちを押さえ付けた。
「ただいま帰りました…」
本名が帰りの言葉を投げかけてもそれに対する返事はなく、それは両親がまだ戻っていないことを知らせてくれた。疑いがぬぐい去れない本名は窓辺から両親が帰ってこないのを窺いつつ、父の書斎へと入った。
特に怪しい書類は見当たらなかったが、一つだけ開かない引き出しがあった。鍵の在処は幼い頃に父の書斎に勝手に忍び込んだ時に見つけた場所と同じところに掛かっており、開けるのは容易であった。
「こ…れは……!」
そこには一通の手紙が入っていた。それはまさにコンウォル家当主へ宛てたもので、本名は全てを読んだ後に手足が震えた。
どうして、そんな訳が無い、と首を振りながら元あった場所へ戻し、鍵をかけた。こうして簡単に記憶にも鍵がかけられればどんなに気楽でいられるだろうか。本名は平常心で両親を迎えられる気がしなかった。
『……すまなかった。こんなことになるとは思っていなかったのだ。全て私のせいだ。私のことは憎んでくれて構わないから、妻と本名のことは憎まないでくれ。金はしっかり返す………』
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