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第2章 過去
第3節… 9years ago
当時のフォルヴェン家はある程度裕福で、周囲からは評判の良い家柄として認識されていた。そんな中流貴族の家庭に生まれた一人娘は、優しく暖かい家庭で伸び伸びと育っていった。
父は金融関連の仕事をしており家にいることも少なかったが、休日は家族で過ごすことも多く彼女は仕事に熱心で頼れる父が大好きだった。
母はそんな父を陰ながら支え、娘との時間を大切にした。星が好きだった母は季節ごとに娘へ星の話をし、彼女もまた母の語る星の話がとても好きだった。
そんなある日、彼女は流星群が訪れることを母から知らされる。母が夢物語のように語るヘール・ボップ彗星が導くドラゴン座流星群は、連続の悪天候で数十年の間エレブ大陸では見ることが叶わなかったそうで、嬉しさを隠せない母の表情を本名もよく覚えていた。
「ドラゴン座流星群は、大切な人と見なさいね。人竜戦役で勝利してからはこの流星群は願いを叶える強い星だと言われているから」
「お母さんは、お父さんと見るの?」
「ふふ、そうよ。だから、本名はあなたの決めた人と一緒に過ごしなさい」
大切な人、と聞いて自分も両親と共に星を見たいというのが本心であったが、幼心で邪魔をしてはいけないということを悟った。
そして彼女が真っ先に声をかけたのが、コンウォル家のレイモンドであった。当時に恋愛感情を持っていたかは彼女自身でも分からなかったが、本名にとってレイモンドも大切な人であることは間違いなかった。
「流星群?」
「そう!ドラゴン座の流星群。レイモンド、知ってた?」
「いや、知らなかった。俺の両親は星に詳しくないしな」
占い師の予報では快晴になるとのことであったが、流星群が見え始める日が近付いてくると同時に天候も悪化してきた。灰色の雲が空を覆い、星はおろか月でさえぼんやりとその形を留めているに過ぎない。
本名は悲しんだ。母があんなにも楽しみにしていた流星群が見れないかもしれないと。
「晴れると思うけどな、俺は」
「どうして?こんなに曇ってるのに?」
「晴れ女の本名がこれだけ祈れば、きっと当日までには晴れる」
「私だけじゃだめかもしれないから、レイモンドもお祈りしてね?」
落ち込む本名を励まそうとしてくれていることが彼女にも伝わり、二人はその日が近付くにつれ強く願うようになった。
迎えた当日、夕方には雲が去り、無事に雨も上がって橙色の空が雨上がりの木々を輝かせていた。
「まあ、こんなにお天気になって…良かったわ…」
「お母さん、きっと綺麗に見えるね、流星群」
「ええ…。ありがとう、本名が毎日お祈りしてくれたお陰ね」
窓際で二人が微笑む様子を父は静かに見守っていた。本名は父と母に優しく頭を撫でられるのが好きだった。たとえどんな事が起きても、両親だけは自分を裏切ることはないと信じていた。そう、この時はまだ何も起きてはいなかった。
「じきに冷えるから、暖かくして見るのよ」
母の言葉通り日が落ちてから冷え込み、二人は手渡されたマグと毛布で暖を取りながら空に過ぎ去っていく星たちを静かに眺めていた。
隣のレイモンドの瞳にも流星が映っていることが不思議で、本名はこっそり彼の瞳を見つめていた。
「レイモンド、また10年後も一緒に見よう?」
「10年後か。先は長いな」
「うん、そうだけど…だめ?」
「いや、必ずだぞ。約束だ」
ふっと笑って小指を差し出す彼に、本名も笑顔で応えた。10年後も大好きな家族と大好きな彼と、ずっといられるようにと願った思いは星たちに届いているだろうか。何も知らない少女と少年は寒空の元互いの思いに気付かぬままであった。
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