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第3章 再会
第1節
強い光を宿す瞳に込められた思いを知るのが怖かった。逃げられないと悟ってもまだ瞳の奥は覗きたくないと偽名は彼の表面をなぞっていた。
レベッカは穏やかではない二人の様子に気が付き、偽名の服の裾を引いた。レイヴァンがじわりと距離をつめると、偽名はレベッカにこの場を去るように言葉を掛けた。
「でも、偽名…」
「大丈夫よ、ありがとう。二人にしてくれるかしら」
心配をかけぬように優しい声色で話しかけたつもりだが、心なしか声が震えているように感じ、情けない自分に偽名は自嘲気味の笑みを浮かべる。
そんな彼女を見てレベッカは不安になりながらもレイヴァンへ会釈をして背を向けた。彼女の足音が遠ざかっていくのを聞いて、偽名は大きく息を吐いた。
「お前……フォルヴェン家の本名だな」
レイヴァンの問いかけに対して偽名は何も答えずに彼を見つめた。変わらない赤い髪と、強い光の宿った瞳が彼女を捕らえる。この場の無言は、正体を隠すことは諦めたという答えに他ならなかった。
「なぜ此処にいる。此処は戦場だ、お前のような人間が来る場所ではない」
「貴方…何も知らないのね?」
フォルヴェン家が引き起こした破滅の道を、本名は一つ一つ頭の中でなぞった。レイヴァンはまだその事実を知らぬようで、本名は自分が何も言わなければ昔のような関係が築けるのかもしれないと想像すると、それは心休まるものだった。しかしその未来は全てが偽りの日々になってしまう。嘘に嘘を重ねる平穏など幸せではない。
彼女はゆっくり瞬きをする間に彼と自分の両親の姿を思い浮かべた。
「それは…どういう意味だ?まさか、何か知っていると言うのか?」
「レイヴァン……いえ、レイモンド。私は貴方を守る理由がある。そのために此処に身を置いているの」
「理由?」
彼は不穏な理由を想像しつつ目を伏せる本名へと怪訝な視線を向けた。フォルヴェン家の現状は知らないが彼女がこうして戦場に出るほど金に困っているとも思えない。
俯く本名の変わらない姿は、昔の彼女を思い出させた。
「ええ……。贖罪、よ」
贖罪、それが意味が何を示しているのか分からないレイヴァンではなかった。目を見開いて本名を見つめる彼は想像を絶する彼女の言葉に絶句した。
そしてゆっくりとレイヴァンを見上げる本名の瞳には、何処までも続く悲しみが宿されていた。
「何故だ…。何故、それを…!」
「父の書斎で、貴方のお父様に宛てた手紙を見つけたの。それで分かったわ…。コンウォル家を破滅させたのが、私の家だと」
「本名、お前…!」
レイヴァンは彼女の胸ぐらを掴んだが、彼女はそれに怯むことはなく、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「私を殺して貴方の気が晴れるなら、それで構わないわ。寧ろそれを望んでいる…と言っても過言ではない。貴方にもう一度会うために此処まで来たのだから」
本名は心からの憎しみを向けてほしかった。これ以上彼が間違った憎しみを持つのをやめてほしい、真実を知ってほしいと。しかしレイヴァンが彼女へ向ける瞳があまりに苦しみに溢れており、本名は困り果てた。
「……っ!もういい、行け!」
レイヴァンは本名を突き放した。彼がそう言う以上、彼の側にいるわけにはいかない。彼女は何も言わずに彼へ背を向けたが、視線を外したところで彼から放たれる痛みが本名を襲った。
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