他人の意見など捨て置いて
>ヒーローランキングというものが存在するのはヒーローでなくても知っている。事件解決数と支持率でヒーローをランキング化するのだが、所謂人気投票のようなものだとなまえは思っていた。ファイバーヒーローベストジーニストとして毎日勤める袴田維もヒーローランキングの上位に入る人気のあるヒーローだ。しかし有能な彼女はランキングには殆ど縁のない生活をしていた。
それは何故か。
「相変わらず支持率がほぼ皆無だな」
「一般事件はほとんど関与しないし、名前すら知られてないんじゃないかしら」
「なまえはもう少し連合から身を引いても良いのではないか?」
「貴方の言いたい事は分かってるけど、そんなことは出来ない。私を此処に入れる時も言われたでしょう、根津校長に」
なまえは、ヴィランに寝返り指名手配されていた元ヒーローと行動を共にしていた過去もあり、一時期ヒーロー免許を剥奪されていた。
彼は寝返ってなどいないと必死に庇いヒーローの攻撃を防御したのだが、その彼はなまえを守るために自決を選んだという、悲しい事件だった。結局証人もおらず証拠不十分として彼女は免許剥奪と一時期のヒーロー活動禁止という罰則で収束したのだが、なまえはその一件以降ヒーロー社会全体に疑問を呈していた。
そんな彼女をどうか事務所においてくれないかと彼に依頼したのが根津校長であった。なまえはヒーローとしての大いなる素質があり、そして闇の世界に顔もきく。これほど心強い味方はいない、と。
「ああ…だが、なまえもヒーローである以上トップを目指すもの。人々から支援を得た方が仕事も容易いはずだが」
「それはそうね。でも維さん、忘れた?私が何のためにもう一度この免許を取得したか。私はこの社会を許せない。平和の象徴なんて…いつか消える灯火を信じ続ける社会なんて、虚しいだけよ」
「分かっている。だからこそ私は君を此処に迎えたのだ」
ヒーロー殺しステインに共感すると言って事務所をざわつかせたと思ったら、場所を特定したから行ってくると保須に向かったり、彼女のヒーロー活動は自由気ままであった。本来であればサイドキックとしてその行動は許されるものでは無いが、対ヴィラン連合専門ヒーローとしてジーニアスオフィスに身を置いているなまえは特別それを許可されているのである。
無論それは彼女の個性の強さが他の所属ヒーロー達を黙らせているというのもあるのだが、誰も止める術のない状況を彼は危惧していた。
「維さんはこの世界に満足しているの?」
「満足、か。していたらヒーローになろうとは思わんだろう」
「ヒーロー殺しステインは私に言ったの。お前も本物のヒーローではない、とね」
「本物?」
「ええ。とはいえ私は生かす価値があると言って攻撃はされなかったんだけれど。彼と本気で戦う気はあったのに本物でないと言われて…少し堪えたわ」
ヒーローは勇気がなくてはならない、自己犠牲の最上級でなければならない、いつ何時たりとも自分の幸福より他人の命を重んじなくてはならない。そうステインは考えていた。そしてなまえはステインに本気で挑んだが、彼女を本物ではないと言った。
本物とは何か明確には分からないが、本物でない、即ち偽物のヒーローであると言われたことがなまえにとっては打撃だったのだ。ここまで登りつめたものがたった一言で崩れてしまうような、そんな感覚だった。
「まだあの時のことを気にしているのだな、なまえ」
「根底に隠していた真意を突かれた気分ね」
「連合は動いているのだろう?」
「それが、まだ仲間ではないのよ。黒霧は仲間に加えたいと言っていたけど、弔くんが乗り気じゃないみたい」
「ほう…死柄木弔…か」
ヴィラン連合とヒーロー殺し。派手で残忍な行為が目立つがゆえに協力関係にあるのではないかと取り沙汰されているが、実際はそう上手くいかないのがヴィラン社会であることをなまえは知っていた。だからといって接触を図った連合が無関係であるとは言い難い。いずれどこかで情報が出てもおかしくはない、と彼女は苛ついた死柄木弔の様子を思い出してため息を吐いた。
「ヒーロー殺しを野放しには出来ないが、連合から目を離すわけにもいかんということか」
「そうね。幸いにもヒーロー殺しは市民に手を出すわけではないから、私は引き続き連合を追うわ。街中で脳無を出されても困るから」
「脳無…USJ襲撃の際に捕えられた者か。連合の目的は何だ?お前が脳無を止めたら連合からの信頼が無くなるだろう」
「目的なく人々の命と生活を奪うなど、絶対に許せない。ヒーローとして脳無は絶対に止める。だから維さん、保須に行くことは止めないで」
ベストジーニストはなまえの強い意志の籠った視線に頷いた。どんなに連合に肩入れしたとしても彼女がヒーローということには絶対的な自信が持てたし、彼女であればヒーロー殺しを止めることも難しくは無いかもしれない、と彼は目の前のヒーローに心底信頼を寄せていることを自覚して静かに息を吐いた。
とはいえなまえが保須に行くことを了承できるわけもなく、だからと言って止めたところで効き目がないことも理解しており、どうしたものかと返事を悩んでいると彼女はそれを見越して彼に微笑みかけた。
「大丈夫、事務所に迷惑はかけないわ」
「そういう問題ではない。大人しくしろとは言わないが、私の立場も理解して欲しいのが本音だな」
「あら。それを言うなら維さんこそ、私の立場を理解してくれない?ヒーローと連合の狭間にいる私の立場をね」
ふふ、と笑うなまえを見て、既に彼女の心は保須へと向かっていることを察する。公安委員会に厳しい目を向けられるのは致し方ない、言い訳を考えた方が早そうだ、とベストジーニストが深く溜息を吐くと、なまえはそんな彼を見て足取り軽やかに部屋の窓を開けた。
「そうと決まれば、早速行ってくるわ」
「ああ、これ以上ヒーローの命を落とさせるなよ」
「こちらは任せたわ。連合の動きによっては連絡する」
「頼む」
まるで妖精のように長い髪をはためかせて彼女は飛び立っていった。初めてなまえを見た時も、彼女は長い髪を器用に翼のように扱い空を飛んでいた。あの髪が盾にも鉾にもなりえるのだから不思議なものだ、とベストジーニストはなまえの姿が見えなくなってからもしばらくその空を見つめていた。
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