夏祭り〜かき氷〜


カップル限定半額券!というのを顔面に見せ付けられ、一緒に行ってくれと彼女が懇願してきたのをきっかけに2人で夏祭りへ出掛けることとなった。行く先は夏祭りに参加している人気のあるかき氷屋で、ふわふわとしたかき氷が美味しいのだという。他に誘う人がいなかったのかとか、彼氏がいるんじゃないのかとか、聞きたいことはあったが待ち合わせにやって来た彼女の姿を見て俺は言葉を失った。
制服以外は見たことがなかったので何でも新鮮なのだが、その格好はTシャツにショートパンツで厚底のサンダル。パーマのかけられた茶髪はアップにされて彼女の後ろでくるくると楽しげに踊り、むき出しになった耳には大きなピアスが揺れている。イマドキの女子といえばそれまでなのだが、その姿に思わず俺は唾を飲んだ。

「ごめーん、お待たせー!半額券忘れそうになって1回家戻ったんだよね。まじウケるでしょ」
「遅いと思ったら何やってんだよ」
「いやむしろ途中まで行って確認したの偉くない?なんか忘れ物した気がしたんだよね〜」
「忘れたまま来たら1回帰らせる」

国見ガチで言いそうだしちゃんと持ってきて良かったわ〜とみょうじはヒラヒラと半額券を見せびらかして笑った。ただの隣の席のギャルだったのに、いつしか2人で出掛けるようになって、少しだけ気になるようになって。てか国見ってマジ背高いよね〜と言う彼女と並ぶと、あんな厚底を履いていても俺より背が低い。お前身長いくつ?と聞くと、155だという答えが返ってきた。意外と約30cmは違う。この厚底を履いたところで精々160cmそこらにしかならない。小さい女子は可愛いと言うが、彼女は小さくても大きくてもそんなに変わらないだろうと俺は思った。

「何意外そうな顔してんの?」
「え、だってそんな小さいイメージなかったし」
「態度がデカいからですぅ〜」
「俺はそこまで言ってないからな」
「顔が言ってたから!なまえさんの目は誤魔化せません〜!」

何だそれと言いながら2人で目的の場所を目指す。夕方とはいえ暑いなと彼女の方を見ると、1度家に戻ったからか首筋に汗が浮かんでいる。学校なら手持ちの扇風機で涼をとっているし、汗でメイクが落ちるだのなんだと鏡とにらめっこしているのをよく見るので、今日もそう言うかと思いきやどちらの道具も彼女の鞄からは出てこない。
普段と変わらないような会話をしながら、少しだけ違う空間にもどかしくなって俺は彼女に聞こえないようにため息を吐いた。

「あ、国見ほらあそこ!流石にこの時間だし空いてそーじゃない?暑いし早く食べたいわ〜」
「ほんと。暑すぎてヤバい」
「ねぇねぇめっちゃ可愛いんだけど!ヤバくない!?アガる!」
「みょうじうるさい」

バンバンと腕を叩いてくるみょうじから距離を取ろうとも彼女は俺の腕を引いて早く行こうと目を輝かせている。お互いに汗でしっとりしているのに、嫌なはずなのに振り払えないのは何なのだろう、と俺は思ったが、彼女のこんな弾けるような笑顔を見たのが初めてだからかもと検討をつけた。隣の席だし話すことも多いが、お互いにダルい眠いと言っていることが多いのでこんな笑顔を見ることなどあまりない。

「ヤバ、見て見てこれ、ちょ〜美味しそう!」
「え、キャラメル味あるじゃん…」
「あ、そういえば国見ってキャラメル好きなんだっけ?なんか意外だよね、ウケる」
「好きなのは塩キャラメルだから。あとそのくらいでウケんなよ」

店員に怪しまれることも無く案内されると、そこは夏祭りの雰囲気とは一変してオシャレな空間が広がっていた。どうやら夏祭りに参加しているだけらしく、周りは若い女性が多い。カップルなんか全然いないじゃんと辺りを見回すと、チラホラとその姿が見受けられた。まあ、いるならいいかと案内された席に着くと、どれにする?とワクワクした顔でみょうじがメニューを広げて見せた。

「俺これ」
「早!岩泉さんのスパイク並み!」
「何そのたとえ」
「だって音速みたいに速いじゃん、ヤバくない?惚れる」

そんなこと言うなら岩泉さんと来ればよかったじゃんと言うと、今日はカップルなんだからそういう話はマジで静かにしてとみょうじは真面目な顔で注意するので俺は笑いを堪えきれなくて肩を揺らした。岩泉さんとデートしている彼女はたしかに想像出来ないし、あの岩泉さんがカップル限定に惹かれて来るとも思えない。俺が丁度いい相手だったのだろうと思いながら彼女が悩んでいる姿を見つめていると、店員がこちらに来て一つのドリンクをテーブルに置いた。

「こちらカップル限定のスペシャルドリンクのサービスとなります」
「え!マジ?可愛い!こんなん書いてあった?」
「俺は知らないよ」
「ヤバ!写真撮るわ」
「その前に早く決めてよ。俺早く食べたいんだけど」

テーブルの上に置かれたのは、シュワシュワと爽やかに炭酸の鳴るピンクとオレンジがグラデーションになったドリンク。そして途中から二股になっているカップル用のストローがご丁寧に刺してある。
まあみょうじ相手ならこれで飲んでもいいかと思った自分に驚いて俺は目の前の彼女に視線を移した。まだメニューとにらめっこして考えているらしい。正面から彼女を見たのは数える程しかない。ピンク色に塗られた唇を尖らせて悩んでいる様子も、彼女が動く度に揺れる髪もピアスも女性らしく見えて俺は目を逸らした。

「すいませーん!この苺のやつと、キャラメルくださーい」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
「何お前、結局苺にしたの?」
「うん、やっぱ定番じゃん?って結論。てかさ、これ飲もうよ!めっちゃ楽しそう!あ、ヤバその前に写真写真」

慌ただしい奴だなと思いながら目の前の彼女を見ていると飽きないと感じている自分がいると俺は思った。全く違う世界で生きているというか、彼女は常に新しい。最近バズってるこれ見た?と動画を見せてきたり、流行りのポーチ買ったんだけど一瞬で壊れてぴえんと結局前に使っていたポーチを出してきたり、本当に自分とは真逆の人間だ、と思ってそれを楽しんでいた。

「俺も飲んでいいわけ?」
「当たり前じゃん、カップルなんだから」
「お前さー…」
「ちょ、ほら店員さん見てるし早く!」

と言いながら自撮りで動画を回して楽しそうなみょうじを見てまあいいかと俺はストローに口をつけた。こんな近い距離で彼女を見たのは初めてだった。瞼にはキラキラとアイシャドウが塗られているし、睫毛はくるんと上を向いている。いつもの学校の化粧と違うことは分かったが、何が違うかまでは分からない。ストローを咥えながら彼女の方を見ると、まじカップルみたいでちょー楽しいねと笑うので俺も釣られて笑った。

「ほら、あーんして」
「流石にそれはやだ、周りもやってないし」
「えー、いいじゃん!私の苺ちゃんも美味しいのに」
「お前は俺のキャラメル食べたいだけだろ」
「あ、バレた?」

ヒヒヒ、とスプーンを咥えながら笑う彼女の隙を見て苺の塊の部分に勝手に自分のスプーンを刺して強奪すると、あー!と大きい声を出すので静かにしろよと眉間にしわを寄せる。フローズンの苺は甘酸っぱくてシャリシャリしていて、氷はふわりと溶けて美味しい、キャラメルの甘さとはまた違うなと思っていると、彼女も俺のかき氷をスプーンで掬って食べた。
外から見ていれば仲睦まじい恋人同士に見えるだろうなと思いながら、俺はもう一口苺のかき氷に手を伸ばした。

「ねー、また来ようよ」
「は…?」
「私、国見と一緒にいるのめっちゃ楽しいんだよね。国見は?」
「え…あぁ…まあ、うん」

歯切れ悪、私もしかして振られた?と笑う彼女がキラキラ輝いているように見えて、俺は目が悪くなったのかと思った。恋人なんて作ろうと思ったことは無かった。バレーが生活の中心だったし、その生活を壊されたくない、恋人なんて面倒くさいだけと思っていた。彼女はまさにその中に土足で入り込んできたけれど、こんなに悪い気がしないのは何故なのだろう。夏の暑さにやられたのか、と俺は口の中に残る苺の種を噛んだ。



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