玉葱を刻むとき

COCO MEMO TEXT

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甘くて香ばしい、恋人との日々。
彼のひととなり、すきなもの、ことば。


記念日:2019/12/25

連絡先を交換してからは、一日と置かず、それぞれの時間を切り取ってはメッセージを送り合っていた。きっと二人ともに、お互いが今なにをして、なにを考えているのか思い巡らせていたのだと思う。

八個歳上の彼は、それはそれは忙しい人で、いつもどこかに疲れを滲ませていた。わたしの前ではソツなく笑って見せて、少しでも会えた日の朝は、こっそりと甘いお菓子を握らせてくれるのだった。
当時、恋人のいたわたしは、ひと匙の後ろめたさを小脇に抱えたまま、それでもただただ、少女のように無邪気に、彼からのプレゼントと眩しいほどの憧れを素直に享受していた。
すらりと長くしなやかな手足で、作業をこなす彼の後ろ姿をいつも陰から眺めていた。その軽快さ、颯爽とした立ち居振る舞いには、きっと女性なら誰もが羨望する、心の奥からじんわりと滲む何かに抗える自信など、今思えばどこにも持ち合わせてはいなかった。

たまに見せる、冷めた顔に、少なからず怯えた。
いつだって朗らかに挨拶を交わす彼の声色や、柔和な雰囲気、明るい表情を突然断ち切るような、冷徹な硬直感。
そのとき、偶像、という言葉が頭に浮かんだ。わたしはもう、どうしようもなく憧れていたのだった。完璧な人間性を持ち合わせた、優秀な男性像を作り上げていた。非の打ち所など到底探り当てられないような、聖母のような、キリストのような、幻想。
それでも夢から覚める隙を与えてもらえなかったのは、畏れを抱くほどの冷ややかさでさえ、彼がまとえば美しかった。
彼に望まれるのなら、わたしの心を突き動かさないものなど。
息を吸って、吐く。ひと呼吸を終える素早さで、わたしは恋人と別れ、彼のものになった。

いくらだって愛されたい。偶像だった彼が、実体を持って、手を伸ばせば現実として存在してくれる。
いくらだって愛したい。触れれば温かかった。少し乾いた掌が、わたしを握り返してくれるたびに愛しさが込み上げて、それはそれはたまらないのだから。
全身の細胞がほどけてしまいそうな感覚、許しがたい官能が呼び起こされて、彼の指先につつかれるものなら、たちまち溶けてしまう。
なんて素敵なんだろう、見上げた二十センチ先にある黒い瞳に、惜しげもなく見つめられる幸せと。ゆるやかに弧を描くうすい唇に、飽き足りず名前を呼ばれるその幸せと。


かわいい、と頭を撫でる大きな掌に髪が揺れる。
荒れてる、と額を押さえる乾いた指先にこめかみが熱くなる。
ほそいね、と腰にまわされた腕に全身で縋り付いて、 抱きたい、と鼓膜を震わせるささやきに、下腹部が善がって、いつだって苦しい。
大好きだと、言ってくれる。そうやって、わたしにくれる言葉のひとつひとつが、どうして何もかもを救ってくれるのだろう。

彼は、犬がすき。いい香りがすき、ふかふかしたものがすき、綺麗なものがすき。甘いものもきっとすき。
ブラックコーヒーをよく飲む。キスをすると、ふわりとコーヒーの香りがする。
寝る前にビールを飲む。ウイスキーを飲む。プライドが高くて負けず嫌い、表には出さないけど、実はこっそり闘志を抱いてる。
柔らかい物腰とは裏腹に、強引でオレ様。人を惹きつけるのは見目形が良いから、そんな幼稚な感想に留まらないのも、当然知性が備わっているからで。賢明で正しい人。だからきっと、誰もが疑わずに導かれていく。
かわいいひとだと褒めるのは、わたしだけでいいから、あとは内緒にしておこう。
勿論、問題だってある。どうしてわたしなんかと、と落ち込んでしまうことは毎度で。だけど離れたくないから、思考停止してしまって困らせるばかり。いっそもう、この人に守ってもらうなんて、甘ったれたことばかり考えてしまう頼りないわたし。


もう少し二人でいれば、きっともっと色んなことが馴染んで、何がなんだかわからなくなってしまうかもしれない。それでもいい、なんてことは、簡単には言えないけれど。
八月から同棲をして、ゆくゆくは。
二人が幸せでいれるように、思いに想う、毎日が続きますように。

今日も今日とて、一秒だって漏らさず、大好きです。


for.love♡


♡ - 玉葱を刻む