つまり、大人になるということも、
▽2020/08/29(Sat)現実、それすなわち真実ではない。子供でいたときのように、道端で転んで、えんえん泣いて、膝小僧をママに見せたら、ああ転んでしまったのね、痛いのね、よしよし、と状況の顛末をわかってもらえる時点にはすでにいない。
どんなに心が痛くても、それを吐露できる相手がいないのは、大人になった証拠のように感じる。
あるいは、もう一つの仮説として、その中身の精査が行き届いていて、自らの矛盾を理解しているということ。
きっとわたしは純粋なまま、ひねくれてしまった。すごく愉快に言ってしまえば、河辺の石ころを、単なる石ころだと知りながら100万円の価値があるものだと言い張れるくらいに。
あそこのおじょうちゃんが、公園に成ってる柿を物欲しげにしていたから、ひとつ、採ってあげたんだ。そのお返しに、一緒にお風呂に入ってくれと言ったんだ。そうしたら、いいよ、とその子は答えたから、、、
幼心ながら、その交換条件は成立し得ないことをわたしは知っていた。
神様が叶えてあげるひとつと、わたしが捧げる代償に落差があってはいけないことを、子供のときから自覚しようとしていた。
なぜなら、わたしは恵まれていないと思っていたから。
あの子が当然のようにフタをあけたお弁当と、わたしが努力して得たお弁当の中身がそれでも確かに違うものだった、とか、あの子が伸び伸びと健やかに欠伸をしていることと、わたしが懸命に奥歯で噛み殺している欠伸が、同じものに気付いてしまった、だとか。
すごく些細なところから、比較して、違いが何かを見比べて、学んでいった。
わたしは、今のわたし自身の気持ちを、中々おそらく正しく表現できる。と思う。
ただ、着地点がないだけ。
こう思う、は論文提出の際に必ずチェックされて返却される。
結論に帰結しなければいけない。
わかってる。
すごく非常識的なドツボにハマってしまったらしい。
お皿が割れたのは、割れた、んじゃなくて、割った、の。
そんなことさえ白状できない。
奥さんがいて、子供がいる人はもうやめようと思っていた。
心がいくつあっても足りないから。
でも、そんな人から逃げるように恋をした人も、奥さんのいた人で、子供のいる人だった。
結婚式のときのビデオ撮影でこの海にきたんだ、とか、(娘と同じくらいなのかわからないけどきっと同じくらいの小さな女の子が)お見送りにきてくれた、と言っていとしそうに手を振り続ける姿、とか。
やっぱり違わないんだ、と何度だって自覚する。
何度自覚したって、繰り返してしまう。
わたしは愚かしい。
まんまとそういう等身大ではいられない人たちに惹かれてしまうわたしは、とてもとても、愚かしい。
かわいいと言って、好きだと言う、あの人も奥さんがいて、子供がいる。
わたしはニコニコと喜んでみせる。
それだけだけど、やっぱり甘えたくなってしまう。卑屈な精神のわたしには、都合よく映ってしまう。
世の中の妻子持ちを、一切信用できなくなった。
父をはじめて、憎く思った。
母を置いてけぼりにしたから、わたしたち子供が負わずによかったものを負った。だとか。
母の苦労に少しでもあのとき寄り添ってくれればわたしたちももう少し冷静に両親へ応えられたのではないか。だとか。
まったく不毛な考えが、ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃする。
それから、いつだって、思い出す。
じーちゃんばーちゃんちの真向かいに、ヤクザのおじちゃんが住んでいた。
夏は刺青でいっぱいの身体を、惜し気もなく披露して、でっかい車を洗車したり、庭に水を巻いたり、せっかくの浴衣の袖も、しわしわにしていたり、していた。
すごくわたしをかわいがってくれて、飼い犬のタローとブー子に(この子たち、すごく吠えるからこわかった)、おじちゃんといつも一緒にエサをあげていた。
いつの頃からか、顔を見せると吠えていたタローとブー子が、弱々しく元気なく見えるのに気づいて、わたしはせっせと野草をむしっては、あげていた。
それでも、週に一回来ていたかどうかのわたしは、どんどんと痩せ細っていく彼らに気付いて、主人がいなくなったことをやっと悟った。
じーちゃんばーちゃんは、そのとき正解は言わなかったけど、やっぱり夜逃げだった。
真相はさだかではないが、痩せ細って飢えたタローとブー子は、脱走して、交通事故で死んだ。そうだ。
何も出来なかったくせに、すごく悲しかった。
何もしようとしなかったくせに、残酷だと思った。
ヨソモノの心の動きを、わたしはすごく理解した。所詮、他人事。
一度そう、可哀想に思っただけで自分は優しい人間だと勘違いしている、人間。不憫だと思っても、放置しているのが大人なんだ。
わたしも、ただ甘やかされていればいいの。
いざとなったら、捨てられたって。
綺麗事と建前で生きている大人と、同じ空気を吸って同じものを食べて、同じ価値観の中で色んな出来事と直面して、不憫だなんて。笑っちゃう。
だからわざわざ傷付かなくてもいいの、筋が通っていないことに気付いてる。
誰かが愛していてくれればいい。
誰か、でいい。
嘘も本物も、愚かなわたしには到底見定めることなんてできやしないんだから