乱世の女


大変なことが起こっていた。
洛陽の都が灰になり、新都長安でも争乱が始まっていた。
栄華を誇った乱世一代の暴君董卓は死んだ。信頼していた男、そして、自分の息子のように愛した呂布の裏切りの凶刃に倒れた。

思えばもっと遥か前から漢帝国の腐敗と迷走は始まっていた。容赦なく人びとから搾取を続ける貴族達。
刹那的な横暴で、土地を耕す者が逃げ、耕地はいつの間にか荒野に変わっていた。
奪いあい、殺しあい、果てに人肉を食い生き延びるという有り様。

その乱世も一応の決着がつくかに見えていた。董卓という暴君による天下簒奪という形で。

が、その董卓が今斬殺されたのだ。

軍師とは言え、李儒も刀を下げていた。
恐らく使ったことのない刀。が、手入れは行き届いている。以外な程几帳面な男だったのだ。
貂蝉にとって李儒の刀は重たかった。切っ先が震える。
どうしてもっと早くこうしなかったのだろう。貂蝉は自問する。もっと早くこうしていれば、李儒や董卓、そしてこの争乱に巻き込まれた多くの人びとが死ななくて済んだかも知れない。

貂蝉の首筋に血が滲む。
切れ味が良いのはありがたい。
「華雄様、御側に参ります」
貂蝉は最期、呟くようにそう言った。

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