ひだまりしんだ


「友人の子だ」と官兵衛が連れて来た子供を見る前に、「お前に友が居たのか」と咄嗟に聞いてしまったが仕方ない事だろう。
半分は冗談だが、不運の女神に惚れられている官兵衛はそこはかとなく面倒臭い性格をしているので友人を作りにくい。「だったらお前さんは小生のなんだ!」という怒声に「知人」と答えれば泣いた。まったく、面倒な男である。

官兵衛の後ろに立つひょろりとした体躯の少年は、理知的な顔付きをしていたが眼は真っ当なものではなかった。こいつは将来、とてつもない事を仕出かしそうだ。悪い意味で。

「よろしくなあ」

無遠慮に頭を撫でると、巧妙な作り笑いが返ってくる。この又兵衛という名の子供は、聡過ぎて子供らしく生きれないようだった。






又兵衛を預かったのは官兵衛だが、不運なりに忙しい奴なので自然と又兵衛の世話は俺に任されるようになった。俺も暇では無いのだが、弟妹は多い方だったのでなんとなく構っていたらこのザマだ。

「名前さん見て下さいよぉ」
今日はこれを覚えましたよ。今日はこれが出来ましたよ。オレは凄いですよねぇ。オレは使えますよ。オレは、オレは。

又兵衛はまだ幼く、ここを出たら一人では生きていけない。それを理解できるほどに聡い子であったがゆえに、彼は不幸な子供だった。

自分の有用性を主張して、それを認めてもらわない限り安心できないのだろう。見て下さい聞いて下さいと、子供には難しすぎる兵法を覚えては聞かせてくる。それをちゃんと見て、聞いて、「お前は凄い子だ。将来が楽しみだよ」と撫でてやるのが俺の務めだ。最初の頃は撫でるたびに小さく舌打ちをされたが、最近はニタリと、又兵衛なりに満面の笑みでこたえてくれるようになった。

「名前さぁん」

甘えた声で称賛を強請る又兵衛に、今日も手放しの褒め言葉をおくる。この子は褒めて伸びる子だ。このまま俺が褒め続けたら、真っ当に育ったら、この子はきっと将来どでかいことを仕出かすだろう。良い意味で。












踏みにじられた桜と共に大地に伏せる。血が出過ぎて、世界が白い。


せめて官兵衛には言っておくべきだった。又兵衛はさみしがりだと、褒められたがりだと。俺がいなくなったら、誰があの子を手放しで褒めてあげるのだろうか。「かわいそうに、」


伊達軍との戦にて苗字名前が討死、春の事だった。


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