みんなしんだ


右手の全ての指の腹は噛みちぎられ、血が出た先から紙に擦り付けられて乾いていく。血が止まったら隣の指、それが乾いたらまた隣の指。なんども繰り返した作業に、唇までも血で染まっていた。

恨みや鬱憤が溜まった時に愚痴を書き連ねるだけだった手帳を、名前は「閻魔帳か」と笑った。そうだ、これは罪を書き記し断罪を行なう為の閻魔帳だ。ここに書かれた者は必ず地獄に落ちる。地獄に落としてやる。名前の頭は残らなかった。大将首だからだ。初陣だった又兵衛が一人で走り見つけたのは、馬に踏まれて原型も残していない名前らしき胴体だけだった。

蝋燭の下で不確かに揺らめく火よりも赤く、紙に同じ文句が続く。



伊達政宗殺す伊達政宗殺す伊達政宗殺す
伊達政宗殺す伊達政宗殺す伊達政宗殺す
伊達政宗殺す伊達政宗殺す伊達政宗殺す

切って刻んで腸引きずり出して中に味噌を詰め込んで
殴って蹴って爪を剥がして皮をはいで首をもいで殺す



書きながらブツブツと同じ言葉を吐きだした。オレは出来るオレ様は天才だから出来るだって名前さんはオレ様を賢いと出来る子だと褒めてくれたオレ様ができないわけがないオレ様の言う事を聞かない木偶共が邪魔をしやがったから逃がしたんだ糞木偶が死ね死ね死ね死ね死ね死ね


血文字の呪詛は最後の頁に至り、又兵衛は閻魔帳に歯を当てて力任せに勢いを付けて千切り捨てた。バラバラと床に散らばる赤茶色の字に染まった紙は、灯りの蝋にも落ちて燃え上がり、消えた。部屋は暗黒に染まり、自分の荒い呼吸音しか聞こえなかった。




「名前さぁん」

甘え媚びた声には、いつもなら返事があったのだ。
もう二度と、欲しい声は返らない。


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