そのひがきたよ


『ザングースとは話したことがないんだ。俺はハブネークだし、彼はザングースだから。彼は俺の事なんて気にも留めないくらいに人に近くなってるけど、俺はザングースがいると噛み付いて引きちぎってやりたいくらいには不機嫌になってしまうから。だけどね、別に不幸を望んだりはして無かったよ』

シャーシャーガラガラ。そんな音にしか聞こえないハブネークの声に、ナマエは生返事で答える。喪服のスーツはクリーニングに出してから奥にしまいこんで、どこにあるかわからない。それを探すためにてんてこ舞いだ。

『アナタ、今外にザングースがいたよ。彼は育て屋に預けられてるんじゃ無かったっけ。ねえアナタ。大好きなアナタ』

「あーはいはい、コマーシャルきたら行くからちょい待てって。お前の腹時計忠実すぎだろ」

『あ、ザングースが行ったよ。知らない人と一緒だ。ねえアナタ、誘拐かもしれない』

もう喪服探しに嫌気がさしたらしいナマエは、ハブネークのご飯作りという大義名分を得て、テレビをみながらノロノロと動き出した。窓の外、彼と彼の大切なあの人が住んでた家の前から、ザングースはとっくの昔に消え去ってしまった。


『あのザングースは俺よりだいぶ馬鹿だから、たぶんわかってないんだよ。
だけど他の奴らよりは賢いから、きっとわかってないふりをしてるんだ。いつか俺も同じようになるかもしれないから、俺だけは彼を愚かだと言い切っていいのさ。彼はとても頭の悪い、人のなり損ないだった』

人の成り損ない。人間のふりをした、ただのポケモン。人にはなれない。俺は知ってる。わかってる。今からちゃんと覚悟をしてるから、彼みたいになったりはしない。たぶんね。

『俺はあんなに無様になりたくはないよ。ねえアナタ。俺の唯一のアナタ。ちゃんと捨てておくれね』

「お前最近外ばかり見てるな。散歩行くか?ちょっと遠出するってのもいいな。…あ、そうだ。お前に紹介したい人がいるんだ」

『愛しいアナタ、楽しみにしてる。楽しみに…』

照れたように笑うナマエに、ハブネークはそっと蛇の声であいしてると呟いた。

俺の大切な、愛しい、たった一人のアナタ。悪い蛇になる前に、どうかお願いだから。


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