あたたかくて肌触りの良い物体


空から『ツム』という謎生物が降ってきて、知り合いに似た要素を持つ何かがぴょんぴょん転がり回る生活がはじまった。
当初は大騒ぎしていたが、皆ももう慣れたのだろう。俺も慣れた。セベクのツムはマレウス先輩の後をついてまわりたがるらしく、「この……! 無礼な肉塊め!」とセベクが毎秒激怒している。あれ、中身は肉なのかな。それにしては軽いような気がする。
昼間は散々手間をかけさせる癖に、夜になったらどこかへ行って帰ってこない。どうせ木の洞にでも巣を作っているんだろう! と心配していたので、「夜は俺のベッドに潜り込んでくるよ」と教えてあげた。何故か俺に懐いてるようで、日が暮れると部屋に来て俺の脇腹にくっついて寝る。甘えてきて可愛い。と、話を続けようとセベクの顔を見上げたら、ごっそりと表情を失った顔をしていたので驚く。

「え、どうしたの」
「…………九時くらいに、部屋に行く」
「いいけど」

いつもと違った様子で心配だけど、午後は授業が違うしガー研(ガーゴイル研究会)は野外で素材集めだから帰りが遅くなる。
ツムが俺の部屋で寝ていると知って、心配になったのかもしれない。なんだかんだ言って、可愛がっているんだろう。

今日も夕飯後に部屋で休んでいるとセベク似のツムがやってきた。ぴょんぴょんと跳ねながらベッドに腰掛けている俺の膝の上に乗る。表現しにくい声をあげてすりすりと身体を擦り付けてくるから、やっぱり俺に懐いている。可愛いなあ。
触り具合はもちっとしていて握ると気持ちよさそう。セベクに似ているのにセベクとは違って素直だ。いや、あいつもわかりやすさで言ったらだいぶ素直な方だけど。
静かなノックの音が響き、もう九時かと時計をみる。

「どうぞ」
「お邪魔します」

礼儀正しく部屋に入ってきたセベクに、ツムを撫でながら手を振る。瞬間、くわっと目を見開いて競歩で向かってきた。そのまま手を振りかぶり、

「危な!」
「逃がすな!」

慌ててツムを抱き上げると、直前までツムがいた場所に風が走る。188cm馬術部武闘派の渾身の平手打ちが通り過ぎたからだ。

「な、なんでそんなに怒ってるんだ? 少し落ちついて話そう。ほら、お茶をいれてあげるから」
「寝る前に紅茶は飲まない主義だ。この……っ! ナマエの後ろに隠れるな! 出てこい!」
「怖がってるだろ、虐めるなよ」

セベクがツムに対して真剣に怒り散らしている。何事にも真剣に向かう姿勢が悪い方向に向いているな……ツムと対等に喧嘩してる奴初めて見た。
まあまあ、まあまあ、と馬を宥めるようにセベクの前に出てツムを背中に隠す。

「なぁに、なんでそんなにお怒りなんだよ。言ってくれなきゃわからないよ、俺がわるいのか?」
「ナマエは悪くない!」
「じゃあ誰が悪いの」
「……あいつ、が」

言っていて自分でも可笑しいなとは思うのだろう。俺の後ろ、ツムを指さすがスムーズに言葉が出ないようだ。



「他人のベッドで寝るのは、無礼だ。僕と似た顔をしているなら、こんな無礼は許されない」
「でもほら、要素が似てるだけで生き物としては犬とか猫みたいなものだと思うよ」
「そんなもの関係ない、ナマエのベッドで勝手に寝ること自体が許されないことだ! ナマエもこんなもの叩き落としてやればいい!」
「お前に似ている子に、そんな酷いこと出来るわけないだろう」

ねえ? とまた膝に乗ってきたツムを抱き上げると、上から奪い取られた。
ぽろぽろと涙のような水分を零して短い手足を俺に向けてパタパタと振っている。可哀想……。

「全く、図々しい! 手間がかかる! 檻にでもいれてやろうか!」
「そんなに責めるなよ、一生懸命で可愛いやつだよ。寝たいなら一緒に寝てやるから」
「ナマエがそうやって甘やかすから……っ、!?」

セベクの手を掴み、後ろからベッドに倒れ込む。俺を押し倒さないように身体を捻って倒れ込んだセベクが目を白黒させて停止しているうちに、放り出されたツムを枕元に置いた。横に置いていたクッションを、枕の横に並べる。

「ほら、寝たいんだろ。おいで」

セベクの肩を叩いて横に誘ったが、俺の動体視力では追えないスピードで立ち上がり、ツムの頭を鷲掴んで「お邪魔しました!!!!」の大声と一緒に消えていってしまった。





「逃げられちゃった」



「あのさあ、俺たちいることおぼえてまして?」


同室の友人三人が胡乱な眼で俺を見てくる。なにいってんだ。おぼえてましてよ、当たり前だろ。

「ナマエって下にきょうだいいる?」
「五歳の三つ子の弟たちがいるけど」
「なるほどなあ」

いつかお前のそのお兄ちゃんムーヴが己の首を絞める日がくる。
種族妖精の同室者がまーーた邪悪な呪いをかけてきたなと思ったが、他二人も深く深く頷いていた。勝手に納得してないで詳細を伝えろ~~~?



ちなみに、セベクのツムは翌日ギッチギチに鳥かごに詰められてたからそっと逃がした。大事にしてやれよ。こいつ可愛い顔してるじゃないか……。


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