つむつむキャンセルをされると悲しむらしい


あちこちに知り合い似の生き物が飛び跳ねていて「こわいなあ」と思っていたが、まさか俺似のやつまでいるとは思わなかった。ぴょんぴょん跳ねながらどこかへ行こうとしていたので慌てて捕獲。

「あ、ナマエツムもいるじゃん。オレのやつもいたぜ」

後ろから歩いてきたエースが、俺と同じように抱き抱えていたエース似のツムを地面に降ろす。
にこにこしてぴょこぴょこ跳んでくるので、俺も自分似のツムを地面に降ろした。エースツムは俺ツムに擦りつこうとしたのか、身体を寄せる。

スッ

俺ツムが避けたせいで、エースツムが転がった。へえ、裏側そうなってるんだ……。

「なんだよ、意地悪すんなよ」

エースはムッとした様子で短い手足をパタパタさせてるツムを元に戻す。そしてまた諦めずに近づくが、俺ツムはプイ!とそっぽを向いた。
こいつらは習性として複数で積み上がるらしいが、エースツムがそれをやろうとしてもプイ!と体をずらして拒否する。
つむつむをキャンセルされたエースツムがひっくり返り、ぽろぽろと涙を零しながら震えていた。一方、俺ツムは険しい顔でそこら辺の雑草を齧っている。

「はぁ? どんな躾してんだよ」
「こいつは野生なので俺の管轄じゃないな」

ひっくり返ったまま身体を震わせて泣いているエースツムと、完全に無視をしてたんぽぽを食べる俺ツム。エースの鋭い視線が何故か俺に突き刺さる。
そっとエースツムの体勢を元に戻したが、つむつむチャレンジはまた失敗した。打ち捨てられたように転がりながら地に伏して泣きじゃくっているのを気にもせず、俺ツムは無情にもぴょんぴょんと移動を始める。それを見たエースツムが一層大きな鳴き声を上げていた。それも無視。鋼の心か? こいつらどうしたんだ。

「いじめんなよ!! おらぁ!! 交尾しろ!!!!」

俺ツムとエースツムを鷲掴みにしてむりやりつむつむさせるエース。ツム達は短い手足を動かしながら必死の抵抗をしていた。小動物虐待はやめろ。

「やめてやれよ、こいつらにも何かあったんだよ……」
「うるせ~~~!! 見てらんねえ~~~!! やれオレツム!! オレが押さえてるうちに交尾しろ!!」
「それ交尾なのか?」

ぎゅむぎゅむと2匹を無理やり押さえつけていると。エースツムがぎゅわあと苦しそうに鳴いた。おい、やりすぎだろ。止めようと手を伸ばしかけたその時。俺ツムが大きく跳ねてエースを突き飛ばした。

「うわっ」
「っ、と。無理やりな事するから……怪我は?」
「してない。えと、ありがと……」

後ろに姿勢を崩したエースを抱えるように受け止める。六回目の別れ話、七回目の復縁を経て、少しだけ俺に優しくなったエースはバツが悪そうにもごもごと感謝の言葉を口にしてくれた。前までだったら「頼んでねえし」とか「そんなにオレに触りたいわけ?」とかだったのに、優しい世界になったもんだ。

「ナマエ! 見てみろよ!」
「え?」

エースの声に導かれ、指さされた先を見た。

「つむつむしてる……!」
「ナマエツムがオレツムを守護ってる……!」

俺似のツムが口に木の枝を咥えて俺たちを威嚇しながら、エースツムをつむつむしていた。ツムにしては鋭いキッとした目をしている。そしてエースの足元には小さな白いものが落ちていた。

「て、手袋を投げつけている! 決闘を申し込まれてるぞ!」
「ナマエツムもポムフィオーレなのか!? え、オレツムを守護るために巨大な人間であるオレに立ち向かうつもり……?」
「とりあえず謝れ謝れ!」
「いやほんとゴメン! 決闘だけは勘弁!」

対話が出来ているのか定かではないが、俺たちが謝ると俺似のツムは剣(木の枝)を下ろした。そのまま背負って……つむつむして? いたエースツムを優しく降ろす。と、頬についていた涙を身体を使って優しく拭いた。

「ツム~~~[V:9825]」

これは隣にいるエースの歓声だ。なんでお前がときめいてるんだよ。
俺ツムはしばらくエースツムに寄り添い、腹の下から何かを出した。薔薇の花だ。

「ツ、ツム~~~[V:9825]」

歓声がうるさい。
エースツムに薔薇の花を捧げる俺ツム。それを笑顔で受け取って服(?)に付け、エースツムは俺ツムの上に乗ってつむつむした。もうこれ専門用語だらけでわかんないな。
2匹は幸せそうに微笑み会いながら、重なったままぴょんぴょんと歩いていく。


「ツムの方がナマエよりキザでスマートじゃん! 見習えよ!」
「いや、姿が似てるだけで別物だろ。エースだってあんなに泣き虫じゃないし、同一視するなよ」
「はんッ」
「なに鼻で笑ってんだ」
「オレがナマエのせいで何枚のチェリーパイを食べたと思ってるんだか」
「ええ……?」
「オレがわんわん泣いたから、おやさしい皆々様がかわいそかわいそって好物譲ってくれたの。1キロ太った」
「冗談だろ?」
「そ、ジョーダン」

プライドの高いエースが、そんなに大掛かりな慰めが必要なほど人前で泣くわけが無い。まあた俺のこと担ごうとしてるな 。
横から覗き込むと、エースは「なに」と少し不機嫌だ。

「薔薇の花、捧げたら貰ってくれるか?」
「赤いのがいい」
「うん」
「棘は抜いといて」
「うん」
「メッセージカードにちゃんと「愛してる」って書いて」
「仰せのままに」

最後の希望が耳をすませなければ聞こえないくらいの小声だったので、ふと、もしかして本当にエースは大泣きしていたのかもしれないと思った。
六回目に別れた時。地獄のようなDMを送り付けてきた時。俺からの電話に出た声は嗚咽でぐちゃぐちゃだった。あれは、どこで電話をとったんだろうか。
今更聞いても絶対こたえてくれないので、こたえは一生出ないだろう。
言葉を重ねる代わりに、隣を歩いているエースの手を握ると、おずおずと指が絡められた。どんどん手が熱くなっていく。

「ナマエの手、あっちい」
「お前の手があたたかいんだよ」
「そっか」

振り払われない手が嬉しくて、愛しい。前を歩くツムたちも仲良くつむつむされたまま飛び跳ねているが、あれは俺たちで言うところの『手を繋ぐ』と同じ行動なのかもしれない。姿かたちだけではなく、本当に中身が似ているのかもしれないなと、初めて思った。


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