何度生まれ変わっても君だけに恋をするよ《証明》


無から突然現れたように出てきた男を見て、ついさっきまで親指を大地に向けて「絶ッ対お前とは友達にならない!! 死んでも嫌だね!!」と啖呵を切っていたジャミル・バイパーが表情を変えた。
「ナマエ……やっぱり、来たんだな」
「来たよ〜〜!! すぐに真意汲み取れなくてごめんね〜〜!! さっきまでのジャミルもワイルドで素敵だったけど、やっぱりいつもの君が1番好き〜〜♡♡俺の事捨てるって嘘だよね! ね!!」
ぎゅむぎゅむと抱き締められて、満更でもなさそうに笑う。たった今殺されかけた監督生含め大勢は、このベタなすれ違いからのラブコメのようなくっそ寒い流れを呆然と見ていた。お前も死にかけて俺達も死にかけたがそのオチがこれか。というか、誰だ。

「おい……くそ、マジでやってんのかこれ……」現実を上手く認識できず、繰り返し呟いたあと、エースの本日一番の大声が響いた。

「はァ!?
こいついるならもうそれでいいじゃん!!!」

正当な怒りである。
「ピ!」と短く叫んで消えた謎の男を「おい!! 驚かすな、怖がっているだろ!!」と、どの面下げてんだとしか言えない庇い方をしている今回の元凶。エースは地団駄を踏んで憤りをあらわにしたが、今回最大の被害者であるカリムが「ご、ごめん!」とすぐに謝ってしまったので追求が出来なかった。
この男、どうやらNRCの二年生ではあるらしいが、ユニーク魔法なのか元から影が薄いのかすぐに姿を消す。
ジャミルは今更なんだこいつとしかいえないが黙秘権を主張し、それをカリムが認めてしまった。唯一男の素性を知っていたフロイドからは「ワニゴチくん。おもしれーよ、追い掛けたらすぐ隠れんの」とふわふわな情報しか出てこない。純粋にいじめっ子の行動である。だがこれで絞れた、たぶんイグニハイド寮だ。単純に印象で思い込んだともいう。


いろいろと抑圧されていたものが軽くなったからだろう、ジャミルはよく笑うようになったし、今まで影も形もなかった男が嬉しそうに一緒にいるようになっていた。この距離感は、だいぶ前から付き合いがあったとしか思えない。だいぶ前から存在を完全に消していた男も、存在を完全に消させていたジャミルも、一体なんなんだろうか。ちなみに、まだ誰も名前を知らない。逃げるからだ。


「おい!! 事故だ、ユニーク魔法の誤爆!!」
「よっしゃあ見に行こうぜ!!」

「今日も我が校は健やかに最悪だなあ」

どたどたと駆けていくクラスメイトは平和な一日の象徴。監督生が紙パックのジュースを飲みながら次の授業について考えていると、先程駆け抜けていったクラスメイトとすれ違うようにエースが帰ってきた。

「あの人、ほら、ジャミル先輩の理解ある彼くん」
「理解ある彼くんさんがどした」
「今の事故の被害者だけど、俺一応第一発見者だから言った方がいいと思う?」
「ちなみに事故ったユニーク魔法って?」
「一番大事な記憶が失われる……みたいなやつだって」

「面白そ〜〜!! 行こう行こう!!ジャミルパイセンバチくそ泣かせてやろうぜ!!!」
「だよなあ行こうぜ!! やっぱお前話わかるわ!!」
「ふなあ!! ツナ缶忘れずに持っていくんだぞ!」

探し始めてすぐにジャミルは居た。次の授業に使うものを用意していたらしい、二人と一匹に駆け寄られた瞬間『嫌な予感がする……』といった顔をして、そのまま「嫌な予感がする」と言葉にも出していた。表情が素直になって良いと思います。

「ジャミル先輩! 大変です、ジャミル先輩の理解ある彼くんがユニーク魔法の誤爆を食らって……!!」
「待て、お前らあいつのこと俺の理解ある彼くんと呼んでいたのか」
「そんな些細なことどうでもいいんですよ!」
「いいのか〜〜アイツ、一番大事な記憶がなくなる魔法がかかったらしいぞ!」
「何の記憶が無くなったか確認しに行きましょう!!」
「ほう」

ちょっと大きめの喧嘩でもしてくれたら面白いなあと思う程度の可愛らしい悪意だったが、ジャミルは顎に指を当てて静かに首を傾げた。

「デュース・スペードはここにいないのか?」
「デュースならさっき先生に呼ばれて……あ、来ました来ました。デュース! 修羅場見よ!」
「何の話だ? 武力介入が必要なのか?」

さすがマブ、話がわからなくても話が早い。何も知らずにやってきたデュースに、ジャミルは「ちょうどいい感じの棒はないか?」と聞いた。「こういうものなら」とスムーズに鉄パイプが出てくる。何もおかしいことは無い。ここはNRCなのだから。

「よし」
「よし!? 待ってください、何の覚悟決めたんですか!?」
「俺の記憶を失うくらいなら死んだ方が良いだろう。ナマエだぞ?」

むしろなんでこんなことも分からないんだ……? とでも言うような哀れみの籠った困惑の顔をしている。これはさすがに笑い事では済まない。なにせ、もうすぐバスケ部の試合がある。大体の不祥事はちょっとしたフレーバーみたいな扱いのNRCだが、さすがに殺人は試合停止になる可能性がある。

「落ち着いてください! ちょっとそれ冗談じゃすまないって!」
「俺は本気だ」

「彼氏さんナマエさんって言うんですね初めて知りましたおふたりの馴れ初め知りたいな!」
「泣きじゃくって交際を乞われたな」

「え、え、え、僕のせいか!? やめてください貸した武器で殺人は勘弁してください!!」
「わかったとどめは拳で行くさ」

ぜんっぜん止まらない。体幹に丸太でも入っているのかというレベルでビクともしない。グリムがカリムを呼ぶために走ったので、せめて足止めがしたいのに三人を引き摺りながらスタスタと迷いなく進んでいく。イグニハイド寮の自習室だ。
「ひ、」「うわ」「ギャッ」とすれ違う人達が勝手に怯えて逃げていく。監督生はふと、シンボルエンカウント式戦闘でよく見られる低レベルモンスターの動きだな……と、最近イデアから借りたゲームのことを思い出していた。現実逃避だったのかもしれない。

「ミョウジは居るな」

窓際の椅子に座り、どんよりとした澱みのような目をしていた男がジャミルの声に反応して顔をあげる。「よし」掲げられた鉄パイプがスイングされるその瞬間、


「なんて美しい人!! 好きですお願いなんでもするから付き合って!!!!」

腐りかけのブドウのようだった目がツヤツヤのもぎたてブドウに。呼吸も胃の蠕動運動も何もかも面倒だとでも言いそうな顔は朱が差し、床を這いつくばり転げ周りながら「ぅおえっ吐きそう!! 付き合ってくれなきゃ自習室めちゃくちゃにするから! 全力の駄々こねというもの見せるね見てて!!!」と叫んでいる。
この命、救わない方が良かったかもしれない。そう思って監督生はジャミルの顔色をこっそり伺ったが、ジャミルは鉄パイプを床に落として幸せそうに笑っていた。


「おい野郎ども帰ろうぜ!! 関わるだけ損だ!!」
「死んでくんねーかなマジで」
「僕はなんで巻き込まれたんだ……?」

ユニーク魔法の誤爆は三時間で解除されたし、グリムはカリムと一緒に宴の準備で仲良く遊んでいた。これがNRCだ。全部諦めろ。


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