あいしてるでしょいっしょにおちて
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以上、俺がエース・トラッポラと別れた回数と別れる決心をした言葉たちだ。
いちいち全部覚えているあたりがキモいし、飽きた方がいいし、忘れるのが正解で、一緒にいるのは恥ずかしいだろうし、俺が惚れて付き合って貰っていたのは事実で、ナイトレイブンカレッジまで一緒に行くのは執念深すぎて怖いよな。わかる。だぁってめっちゃくちゃ好きだったんだもんよ。あの性格の悪さも人を舐めた態度も、その癖明るくて人に頼られると面倒くさがりながらちょっと喜んじゃうチョロさも、好きだったんだもんよ~~~。
俺はずっと、エレメンタリースクールの時から大好きだったから、一度も好きだなんて言われなくても、俺が惚れてるのを理由に叩けば鳴る玩具みたいに雑に扱われても傍にいた。好きだったからだ。もうずーーーっと好きだった。
俺ばかりがずっとずっと好きで、好きになってもらいたくて、「付き合って」という懇願に頷いてくれた奇跡に縋っては打ちのめされて、でも諦めきれなくて同じことを繰り返し続けてた。気持ちわりいよなあ。わかる。俺だって俺の事気持ち悪いもんよ。気付いてない訳じゃなかったんだよ、諦められなかっただけで。
でも、まあ、これが区切りだ。
俺だって一生雑に扱われたい訳じゃない。本当なら幼い俺の「恋人になって」という告白(なんとバラの花まで用意していた!)が受け入れられたこと自体が間違っていた。本当なら翌日からクラス中に話が漏れて笑いものになって、俺は悲しんだり怒ったりして、……そのうち違う人を好きになれたと思う。絶対そっちの方が幸せだった。
六回傷付いて別れようとしたのも俺だし、頭を下げて付き合って貰い直したのも俺だ。エースはただ「別れるってんなら別にいいけど」と受け入れて「今回謝んの早いね。いーよ」と許してくれただけだ。俺だけがずっと好きだと言って、好きになってもらいたくて、全部だめだっただけ。
俺の中のなにかがバッキリと折れてしまって、妙に落ち着いた気持ちになった。悲しいとかも、特にない。そっかあ、やっぱりなあ。ってかんじ。
そうしたらだいぶ生きやすくなった。エースが新しい友人を作って楽しそうにしていても、『あいつら仲良いなぁ』と客観的に思うだけでそれ以外何も無い。ミドルスクールの時は、あれは誰だろうなんで仲良くしてるんだろうと気になって仕方なかった。そういうところを「ストーカーかよ」と笑われたが、全くもってその通りだ。俺が可笑しかった。
そう思いながら眺めていると、ふとエースが俺をみた。目が合ったなと思ったから、目を逸らす。NRCの治安も生徒の性格もだいたい最悪だが、それでも気の合う友人はできた。放課後は彼らを誘ってどこかに遊びに行ってもいいかもしれない。
「うわ、どうしたんだ!」
エースと一緒にいたスペードの慌てたような声が聞こえて、うっかりまた振り返って彼らを見てしまった。監督生とスペード、あと魔獣が、エースの周りを檻の中の飢えた熊のようにウロウロしている。ぱっちりとした猫のような眼が真っ直ぐ俺を見て、ぼろぼろと涙をこぼしていた。
「エースが泣くなんて、お前、お前! 目の前でエースが可愛がってたハリネズミを殺したのか!?」
「あの赤い子を!? この悪魔!」
エースが不自然に俺を見ているせいでスムーズに巻き込まれた。魔獣がふなふな言いながら青い炎を吐いて威嚇してくる。仲が良いのは結構だが、なんで巻き込まれたんだ?
「オレってそのレベルの事がないと泣かねえ奴だって思われてるわけ? ちげえし、眼にでかめの埃が入っただけだから」
大袈裟な身振りで場を収めようとする仕草が……。なんというか、癪に触った。
「こいつ俺に無視されて泣いてるだけだぞ」
一回も好きだなんて言ってくれなかった。俺を要らないもののように雑に扱って、それでも俺がエースを好きでいる事に勝手に安心していたんだろう。自分のものが断りもなく離れていくから動揺しているんだ。はじめてエースの心を動かせたんだなと思って、嬉しくなる。大笑いしたい気持ちだ。
「わかってんなら無視してんなよ! 謝れ!! 謝りに来いよ!!」
「ははは、やーーだよ。今後とも冷たくするよ、友達でも恋人でもないから」
「おま、お前が、お前が謝れば全部…!」
「やぁだよ」
誰が謝るか。もう七回目は無いんだ。
監督生の声音だけ遠慮がちな「喧嘩したの? たぶんエースが悪いからちゃんと謝りな」と罪の所在を断定する言葉がうっすら聞こえた。俺も悪かったよ。ずっと許してきちゃったから、こういう歪な関係になってしまったんだ。
『謝れ』
マジカメのDMにそんな一文が届いたのは、日付変更線を超えてからだった。宛名はエース・トラッポラ。ああ、いろいろアドレス拒否したから、これにしか送れなかったのか。
『謝りに来いよ、なんで電話もメールも拒否してんの』
『謝らないよ』
『なんで』
対面しないと素直だな。いつもは俺ばかりメッセージを送って、スタンプひとつで終了していた。入力中という文字が出たり消えたりして数分、ピコンと電子音。
『だってお前、オレの事ずっと好きだったじゃん。なんでいつもみたいに来ねえの』
『別れるって言っただろ』
『やだ』
『これから俺はお前じゃない人の為に尽くすし、お前じゃない人とキスをして、お前じゃない人とセックスして、エースじゃない人を好きになるよ』
『やだ』
もう話にならないな。とりあえず、今日は寝よう。ピコン、ピコン、と電子音が断続的に鳴る。
ピコン、ピコン。
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
「は?」
音の連続に慌てて画面を見る。動画が大量に貼られていた。容量が重いせいでなんの映像かはまだ見れない。慌てて未読だった部分に戻る。
『なんで』
『ごめんなさい 調子に乗ってました』
『オレ、ナマエのことちゃんと好きだよ』
『恥ずかしくて酷いこと沢山言ってごめん』
『仲直りしたい』
『オレと付き合って』
『嫌いになんないで』
『なんで』
『ごめんってば』
『見ろよ』
『謝ってんだろ』
『おい』
『無視してんじゃねえよ』
『は? お前の方がちょーしのってんだろ』
『おい』
『ナマエ』
『はあ????』
『謝ってんじゃん!!!』
『あーもういいよ』
『じゃあ全部おしまいにしてやるよ』
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
ピコンピコンピコン
電子音が響く中、ようやくダウンロード出来た動画が再生される。アップになったエースがスマホの位置を調整している。『なにしてんの』『んー、落としたら嫌だから置いてる。充電器貸して』『はいよ』動画の中の俺がベッドに座り、スマホから離れたエースも横に座った。『なあ……オレのベルト、外して』上擦ったエースの声。ああ、覚えがある。凄く、覚えがある。はじめて、セックスした日だ!!!
野郎!!! ハメ撮り撮ってやがった!!!!
『ダーリン、一緒に人生めちゃくちゃになろうね♡』
本当に最悪だ。逆ギレが過ぎる。性格がやばい。こいつ……でも……俺の事、こんなに必死になって………[V:9825]
もう諦めて忘れたと思っていた気持ちに、また炎が灯る。この小さな炎をどうしたらいいだろうか。ブロックしていたエースの電話番号を解除して最初のコール。
一瞬で出た声は、マジカメで連投されていた文面からは考えられないほど嗚咽で濁っていて、やっぱりどうしようもないほど愛おしかった。
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