わがままばかりなかされてばかり


ナマエがまた拗ねただけだって思っていた。ナマエはオレが好きな癖にすぐ「別れよう」とか嘘をついて、オレの事を試そうとする。なっまいき。あいつがオレの事捨てられるわけねえのに。
どうせオレの事ばっか考えて堪らなくなって、またすぐ謝ってくる。だってもう六回もバカみたいに同じこと繰り返してんだぜ。じゃあ七回目もある筈じゃん。オレ間違ってなくね?

ナマエとのトーク画面、何回スタンプ押しても既読が付かない。入学式も一緒にいてくれなかった。別にいいけど。寮が変わったのに何も言いに来ない。別に、いいけど。
ハーツラビュルだと思ってたのに、なんでポムフィオーレなんだよ。ああ、でも、ナマエってキザなところあるから。だからかなあ。

机の一番でかい引き出しを占拠してるでっかいガラスケース。重いしオレの趣味じゃないし最悪。磨かないとすぐガラスが汚れるし、こいつがあるせいで持って来れなかった荷物だってある。ほんと邪魔。

だいすき、いっしょにいて。おれのこいびとになって。

ませてんの。手ぇ早すぎっしょ。ナマエのほっぺたが差し出してくる薔薇と同じくらいに真っ赤でウケた。必死になって言ってくるから、だからいいかなって思った。オレのことだいすきなら、いいかなあって。頷いて薔薇を受け取ったら飛び上がって喜んで、ほんとちょろい。

赤かった薔薇はドライフラワーにしたら真っ黒になった。俺はまだガキだったから兄貴に泣きついて「赤くして」って騒いだっけ。「ここでも薔薇を赤く塗れと言われるなんて」って言ってたけど、今なら俺も意味が分かる。家に帰ってまでやりたくないよな。結局、塗り直したら別物になると言われて諦めたんだった。

「…………」

電話をかける。すぐに機械音に切り替わって『この番号は出ることができません』というメッセージが聞こえる。普通は『現在電話に出ることができません』だ。『この番号は出ることができません』は、着信拒否した時の文言。

「オレが、悪かったから……」

進学したら違う道に行って、遠距離って長続きしないっていうじゃん。だから、同じとこ行けるんだってわかって、嬉しくて、余計なこと言った。それはほんとに悪かったって思ってるよ。でも、「そうだな、区切りだし。別れよう」なんて、言わなくていいじゃん。オレが調子乗んの分かってんじゃん。なんで許さないんだよ。いつもナマエが別れようっていうじゃん。オレ、一回も別れたいとかいったこと、ないのに。

ガラスケースに水が落ちたから袖で拭う。なっさけない顔をしたオレがうつっていて、ほんと最悪。さいあく。さいあく。寮生活だし、デュース達が帰ってきたらめんどくせえし、眠れないけど寝る。既読のつかないメッセージアプリを開いてナマエに『おやすみ』と送った。既読つけろ。『寝る間に少し話せる?』って、また聞けよ。今度はちゃんと、良いよって言うから。


朝起きてオレの文字しか並んでない画面を見る度にテンションが下がる。察する能力マイナスのデュースが「最近寝てないのか? 顔色が悪いぞ」と言うから、結構ヤバいかも。
「お前より寝てるって。寝すぎで頭いてえだけ」
「ふふん、オレ様にはわかるぞ! コイワズライだ!」
「こらグリム、エースにそんな繊細な心理働く訳ないだろ。こいつは煩わせる方だ」
「監督生もグリムもオレに厳しくねえ?」
こいつら唐突に本質を突いてくるから油断出来ねえ。嫌な汗が出て、顔をあげた。ナマエがオレを見ていた。やっぱりオレのこと気になってんじゃん。意地になってるだけじゃん! たまにはオレから声をかけてやってもいいかなって思った瞬間、ナマエは目を逸らした。


「うわ、どうしたんだ!」

突然デュースに肩を掴まれて気づいた。やっべえめちゃくちゃ涙出てる。ごまかせねえかな? てか、今のでオレの肩砕けてねえ? 平気?
デュース達がナマエに絡んでるのがぼやけた視界の奥に見える。ああもう、違うんだって! ナマエは関係ないって、平気だから。ああもう!

「こいつ俺に無視されて泣いてるだけだぞ」

ただ事実を述べているだけみたいな、道を聞いた相手に知ってる道を教えてあげるみたいな、そういう声。誰の声かなって思ってたら、ナマエの声だった。

「わかってんなら無視してんなよ! 謝れ!! 謝りに来いよ!!」
「ははは、やーーだよ。今後とも冷たくするよ、友達でも恋人でもないから」
「おま、お前が、お前が謝れば全部…!」
「やぁだよ」

なんで。謝ったらオレ、ちゃんと許してたじゃん。いいよって、お前のワガママちゃんと聞いてやってたじゃん。なんで謝ってくんねえの。なんで、振り返ってくんねえの。
オレがもうめちゃくちゃになってたから、デュース達が引っ張って部屋まで連れてきてくれた。ベッドに放り投げられて、布団を被せられる。「わあああん!!」誰かの声がうるせえなと思ってたけど、これもしかしてオレの? デュースも監督生もグリムも、他の同室の二人も、オレのベッドの周りをうろうろ歩いてる気配がする。何か言ってるけど、オレの声の方がでかいから何も聞こえない。オレが恋人として最悪な態度ばかりしてたのは認める。ナマエがゆるしてくれるから、嬉しくて、ずっとガキみたいにどこまでオレのこと許してくれるかなって、オレのことどこまでだいすきなのかなって、酷いこと言ったり興味無い振りしてたのは認める。でも、だって、ナマエだってひでえじゃん。別れようってすぐ言うじゃん。そんな事言わないでって、言ってくれればオレも言わないのに、すぐ諦めるじゃん。

「お、おれが、おれが、わるいから、ゆるしてくんない、ナマエが、ゆるしてくんない」

わああああん!!!
泣いて叫んで寝て思い出したように起きて泣いて寝て、メイクも落としてない。たぶんシーツにハート型がうつってる。最悪。
さすがに監督生とグリムは帰ったけど、オレがベッドから起き上がったら同室者全員がビクッと肩を揺らした。

「水」

「ほら、コップにいれてやるから……」
「レモン絞るか?」
「タオルやるから顔を拭きな……」

「全部もらう」

渡された水を飲んでタオルで顔を拭いた。時計は0時を過ぎている。
マジカメのナマエの投稿。オレの知らない奴らと遊んでる。楽しそうでいいな。オレは気絶したように寝てたし同室者全員の精神を地獄に突き落としてた。最悪。

「全員寝てて」

「了解!」
「おっけめちゃくちゃ眠いわ」
「Good Night」

家から持ってきたノートパソコンを開いた。マジカメのDM、ナマエがブロックし忘れた唯一のやつ。

「謝れよ……」

謝れ、謝れ。謝ったらオレ、ちゃんといつもみたいに許すし。
オレも悪かったってちゃんと言うから。

撮り溜めた動画のサイズをDMでも開けるように軽量化していく。17本あった。へえ、オレたち17回しかやったことなかったっけ。
10代にしては慎ましやかじゃね? もっとガンガン来いよ、いつもオレから誘ってんじゃん。そいうとこダメ。リードしろよ、オレのことだいすきなんだろ。
イヤホンの向こうで動画の中のナマエが、動画の中のオレに「愛してる」と繰り返してる。この時の気持ちを覚えてる。腹も胸もいっぱいだった。

『謝れ』

一通目を送ってすぐ、入力中の字が動く。

オレのマジカメアカウントの下書きに17本の動画を貼り付けて、ナマエの返信を待った。あとワンタップで投稿完了だな。



ぜーんぶダメだったらぜーーんぶダメにしよっと。

オレもめちゃくちゃになるけど、お前もめちゃくちゃになれ。いっしょに地獄へ堕ちようぜ、ダーリン。


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