NRCではつよいはえらい


わあ、人が多い。

俺がナイトレイブンカレッジにきて最初に思ったのはそれだった。ミドルスクールに入った時も思ったが、世界各地から人が集められていると規模が全く違う。
鏡の選定を受けて入寮したサバナクローも、複数ある寮の中のひとつというだけなのに、これだけでミドルスクールの人数を超えていそうだった。

「…………」
「どうしたんスか」
「悪目立ちするかなと思って」
「あんたのそれ、すごいっスもんね」

サバナクローの寮服は腕が出る。ということは、俺の刺青が出るということだ。俺もいい加減一般社会の常識というものを学んだんだが、どうやらこれは村以外では他人へ対する威嚇になったりもするらしい。サバナクローは他寮より気性の荒い生徒が集まりがちだというから、絡まれたら困る

1年のうちは寮は四人一部屋だが、俺はこのハイエナの獣人のラギーと、象の獣人のバオウの三人部屋。バオウだけで二人分の物理スペースが必要だから……。当の本人は「暑い」と呟いたきり床で倒れ込んでいる。
一通り荷物をまとめたラギーは暇なのか、人懐っこい顔をして俺の腕をジロジロ見て、にかっと笑った。

「皮膚剥いで売ったらめちゃくちゃ高値になりそうッスね。死んだらください」
「いやだ」
「死んだら痛くないのに!? オレ、高値で買い取ってくれそうな好事家何人か紹介できるッスよ!?」
「その時点で俺は死んでるんだよなあ」

やべえ奴と会っちゃったなとは思ったが、基本みんなおかしかったのである意味ミドルスクールの頃よりは平和だった。俺の腕を見ても「イカスじゃん」とか「気合い入ってんな」と好意的な奴が多い。サバナクロー特有の治安の悪さが俺に合っているらしい。俺自身はそう治安の悪い男じゃないつもりなんだが……。


寮生活はラギーがいつも腹を空かせている以外は平和だし、クラスも隣席のシルバーが数時間に一度、突然寝落ちして頭を打ちつけようとするのに気をつける位で問題は無い。はじめて見た時はマジカルペンで額を抉りかけていたので、それから気になって世話をやいてしまうようになった。あの寝方はたぶん、寝不足とかそういうのではなくもっと根深い何かだ。箒で飛びながら寝かけた辺りで確信した。

イルカの兄弟からは「治安はクソだから舐められたら殺す気でいけよ」とか「学園長の話は聞き流しなさい」とか言われたが、そう悪いところじゃない。友人も出来たし、楽しいなあと思いながら次の授業へ向かっていた時だった。




「あー!!」



大声が頭の上から落ちてきて、同時に肩を掴まれる。

「やっぱ生きてたんだぁ! あのさあ、足使うのむずくねえ?」
「フロイド、いきなり矢継ぎ早に話す物じゃありませんよ。ご無事でよかったです」

同じ顔をした男達が自分を見下ろしている。悪意や害意は一切感じられないが、だからこそ意味がわからない。

「ここで会えるとは思いませんでした。今までどの海に行っていたんですか?」

後ろからメガネの男まで現れて、俺はただただ困惑した。3人もいて人違いというのは難しいだろう。確かに彼らは俺を知って、俺に話しかけているらしい。

「………誰?」

なんとか言葉を振り絞ると、同じ顔をした男たちの垂れ目の方が悲痛な声を上げる。……垂れ目の方と、吊り目の方……?

「あーもう! だからアズールが言ってたじゃん! 低酸素ってやつじゃねえ? 陸ばっか行ってたから頭壊れちゃった? 俺のこと、忘れちゃったの?」
「どうでしょうアズール、治りますか?」
「ナイトレイブンカレッジに来れるくらいだから深刻では無さそうだが……可哀想に、でもご安心ください! 同族のよしみだ、格安でお引き受けしましょう! なんと言っても僕達、お友達ですから!」

「…………あ、人魚たち」

そういえば、イルカの兄弟も変身薬を飲めば人間の身体になった。そういえば、3年も経てば共通語がわかるようになると言っていた。身体の色や尾びれのなくなった身体ですぐには分からなかったけど、この双子は確かに、あの人魚たちだ。
じゃあこっちのメガネは…………。







れ、劣化したなあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。



俺の中の冷静な部分が、絶対に今はそれどころじゃないというのをわかっている。でも素直な感情が、俺の脳みそをこれ一色にした。

あんなにむちむちで、ふわふわで、海の魔女みたいにミステリアスで、奇跡みたいな美少年だったのに。


こんなやせっぽちに……。

苦労してたのかな……。


俺がしんみりしてしまっていたら、間を縫うようにして「ナマエくん、ちょっと用事があるからツラ貸して欲しいっス。失礼しま〜す!」とラギーが俺の手を引いて走り出した。「てめえ! あ"ーもう足邪魔ァ! 走るってどうやんの!」という怒声に舌を出して「ナマエくん貸しひとつッスよ」と笑う。

「あいつら、オクタヴィネルのやべーやつ。入学早々勢力広げてるから、ナマエくんみたいなボンヤリしてるやつはすぐ骨までしゃぶられて終わりッス。あんたは俺の夕飯奢る仕事があるんだから、命大事に!」

「心配してくれたのか、ありがとう」

「……ナマエくん、扱いにくくて嫌っスねえ」

「どうして……」

普通に感謝しただけなのに顔中しわしわにして拒否された意味がわからん。


そうか、人魚たちもナイトレイブンカレッジに来たのか。
俺は彼らとどう付き合っていけばいいんだろうか。それを考えると、胃が痛い。平和に生きれそうだと思っていたんだがな……。


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