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先日、俺を部屋に誘い込んで全裸にしようとしていたリリア先輩は、シルバーの上司のような存在らしい。俺にはよく分からないが、ディアソムニアは茨の谷の王子様であるマレウス・ドラコニア先輩の護衛を兼ねている生徒が多いそうだ。同時期に王子様が二人もいるなんて凄いな。俺が悪党だったら学園を攻撃して全てをめちゃくちゃにしてやるが、そういう護りってちゃんと出来ているんだろうか。入学してそんなに時間が経っていないが、学園長の話は聞き流せと言われて入学したせいか、そんなに信用が出来ない。
あまり表情が動かないシルバーが、非常に申し訳なさそうな顔をしながら「ナマエの刺青は妖精族に伝わる古い文様をモチーフにしているらしい。俺も興味があるから、今度時間がある時にでも確かめさせてくれないか? 全裸にはしない」と行ったので、そのうちディアソムニアに遊びに行くつもりだ。古いものとは聞いていたけど、意味があるなら知りたい。妖精からのルーツだっだんだな。これ。
毎日楽しい。
充実している。
特例がない限り部活動は強制なので、どこに行こうか悩む。
「バスケ楽しいよバスケバスケバスケバスケ〜〜〜!!」
「山を愛する会をオススメします僕と一緒に山を愛しましょう!」
「ボードゲーム部はどうでしょう! 同じ卓を囲むことにより僕達の関係がより深まると思いませんか!?」
「ちぎれる」
両腕と足で綱引きされてるんだが、悪意がないって言うのだけはわかる。だからタチが悪い。
結構丈夫に出来ている方だが、関節が悲鳴をあげてくる。一瞬横をラギーが通ったが、ちらりと見て頷いて去っていった。あれは「オレの手に負えねえっスね。がんば!」っていう目だ。
ただの攻撃だったら振り払うのも簡単だったんだけどな……。子供がぬいぐるみの取り合いをするような動きを人体でやるのはやめて欲しい。ちぎれても俺からは綿じゃなくて血肉が出るから。
「他のところも見学に行ってから考えるから、とりあえずはなしてくれ」
「バスケ部の入部届け書いてから見学に行ってよ〜。ジェイドたちの言うこと信じちゃダメだよ、こいつらギリギリ嘘にならないことしか喋らないから」
「兼部でも構いませんよ? 本命を山を愛する会にしていただければそれだけで……。僕のことだけ信じていてください。他のふたりは何をするかわかりませんので……」
「ナマエ、騙されるな。こいつらは邪悪なウツボですよ、僕が守って差し上げます」
「仲良いなおまえら」
とりあえずこの三人と同じ部活だけは嫌だな。俺の存在がサークルクラッシャー? というのになると思う。ラギーが言ってた。
運動は得意だけど、走ったり飛行術は苦手だ。だからといって入れそうな文化部はほぼ廃部になってる文芸部……あ、これをジェイドが乗っ取って『山を愛する会』になったんだったな……。
一人であちこちに貼られてる部員募集のポスターを眺めていると、背後からいやにハキハキとしたよく通る良い声で「ちょっと」と声をかけられた。
「アナタのタトゥーは宗教的意味合い? 」
「宗教の意味は無いが……」
「文化的なものってこと?」
「文化……いや、どちらかというと家業関係だな」
「漁師かしら」
あ、凄いなこの人。俺の刺青をみてすぐに漁師って仕事が出てくる。
大体の人は俺のこの刺青をみて、宗教かマフィア関係かしか出てこないのに、漁師が刺青をいれる理由を理解しているんだな。
見た感じ、肌が白いし線が細いから海の仕事に親しんでるわけではなさそうだ。たぶん、ただただ知識が深い人なんだろう。
「ここにいるってことは、まだ部活は決めてないのね」
「探し途中だ……です」
「良い子ね。アタシは先輩だから、ちゃんと敬語で話すように」
「はい」
凄い……ちゃんとした先輩だ……! いや、寮長とはいまだ会えないし、先輩も同級生もひっくるめて上下関係=強さで決めるぜな所があるので、サバナクローで慣れてるとこういう先輩らしい先輩に会うと驚いてしまう。その他の先輩っていうと、出会い頭に全裸を要求してきたリリア先輩だけだから……。
そういえばミドルスクールでも、先輩という生き物とは最初の頃に殴られて殴り返してで終わったしな……。
「ふぅん……いいわね。タトゥーも珍しいし綺麗だわ。背が高くてスタイルも良い、顔付きもワイルドね」
「ありがとう、ございます……?」
「隙があるのが難点ってところかしら。アナタ、映画研究会に入りなさい」
「映画、見たことないです」
「一度も?」
「はい」
「アタシを知らない?」
「たぶん……」
キラキラしていて自信に充ちた瞳。知ってるような、知らないような……。そういえば昔買った雑誌に、載っていたような気がしなくもない……?
「……まあいいわ、今からアタシを知りなさい。アタシが全部教えてあげる。
映画を観る喜びも、演じる楽しさも、造り上げる快感も!
さあ来なさい。このアタシからのスカウトなんて栄誉、二度と手に入らないわよ」
「あ、はい」
最近ラギーにめちゃくちゃ罵倒されまくって気付いたんだが、俺は強い人の言葉にすぐ頷く悪癖がある。「ナマエくんの人生なんて、ワカメみてーにゆらゆら波に揺れてて偶然うまくいっただけッスからね。いずれそれで死にますよ、死んだらその皮剥いで売るんで死ぬ前に一報くださいね」と脛を蹴られつつ言い含められていたのに、またやってしまった。
強めの言葉でわーっとまくし立てられると、それに理不尽を感じない限り従順に頷いてしまう。この先輩からは後輩の母と同じにおいを感じる。
「アタシはヴィル。ヴィル・シェーンハイト。ポムフィオーレの2年生よ。さあ、アンタも名乗りなさい」
「サバナクロー1年。ナマエ・ミョウジ、です」
握手を求められた手は硬く、なんらかの武術を学んでいる人の手をしていた。知識が深くて己を鍛えることを続けていて、一人でぽつんとしてる後輩を拾う優しさもある……。これが、名門ナイトレイブンカレッジの『先輩』という生き物……!
映画研究会というものがなんであるか、一切説明を受けないまま入部届けにサインをして部屋に帰った。
うっかりそれを言ってしまったばかりに、ラギーからは「くそばか〜〜〜〜〜! 契約書にサインする時は詳細を確認するんスよ!! 難しい?! 有り金全部ふんだくられなきゃ理解できない!?」と信じられないくらい叱られた。たぶん俺が悪い。ほんとごめん。バオウが部屋に入れないまま1時間経過したのでそろそろ許して欲しい。ごめんて。
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