このあとスマブラやってそこそこ仲良くなった


明日は休み、外泊届けの用意よし。
寮長に「外泊届けの受理お願いしまーす!」と書類を渡すと、理由の欄を見て「おや、おめでとう」と笑って言われた。この前は『友達』って言ってた泊まり先の部屋が、『恋人』になっていることを覚えていたみたいた。頭良い人ってこういう細かい事も忘れないんだな。
『恋人の部屋に泊まる♡』って書いてるだけの申請書も、こうやって提出したら全く抵抗なく受理してくれるんだから、後ろで首刎ねられてる先輩方もなんでもいいから提出しておけばいいのにな。これで却下されないならあとはもう犯罪でもしない限りは全部許されるだろ。
寮長のサインが入った外泊届けが返されて、「セイウチに気をつけて」と冗談を言われる。ハートの女王の時代の、セイウチに騙されて美味しく頂かれたオイスターたちを揶揄ったジョークだ。たぶんデュースだったら通用しなかったけど、オレは賢いからわかる。「違いますって、オレがセイウチ」口を大きくあけてガオーって言うと、「歴史をしっかり学んでいるね」と満足気に言われた。まあね。こういうとこで寮長のご機嫌とっておくと生きやすくなるし。
オレがオイスターじゃなくてナマエがオイスター。オレが取って食ってやるんだよ。



ナマエの部屋には何回も遊びに行ってるけど、ナマエの同室者って言うやつらには全然会わない。クラスが違うからかなって思ってたけど、いつみても犯罪者が証拠隠滅するみたいに部屋を異様に綺麗にしてどこかに消えてる。
ナマエがオレの部屋に来る時は、普通にデュース達もいてスマブラ大会とかしてんのに。
歓迎されてないな〜とは分かるけど、何も言わない方が悪くない? オレ、別にナマエの友達が裸の女の人形たくさん壁に飾ってても、いっぱい絵を描いててもなんにも思わねえんだけど。隠してるみたいだけど、ナマエが普通に「趣味がバレると迫害されるって被害妄想してる」ってお前らの趣味全部喋ってるぞ。オレから隠す前に、ナマエに釘刺すほうが先だったんじゃねえの?

通い慣れたイグニハイド寮は、やっぱり居心地悪いし、オレを見る度に「ポィ」「ペフゥ」みたいな声を上げてゆらゆら逃げていく寮生も変わらないけど、ナマエがいるから良いや。

「ただいまー」
「おかえりー」

冗談でただいまって言ったら、間髪入れずに「おかえり」って言ってくれる。こーいうとこ、好きなんだよなあ。にまにましながらいつものように開きっぱなしのドアをあけると、珍しく人がいた。あ、今日は同室者いるんだ。


「す、すす、すっかり我が家のように……! 新婚さんいらっしゃい!」
「我々は負けませんぞ! テリトリーの奪還を宣言致してターンエンド!」
「ひぇ〜〜ほんまもんの陽キャ様がいらした〜〜」


「ナマエ、こいつらなんて言ってんの? どっかの方言?」
「『エースくんよろしく! 仲良くしてね!』って言ってる」
「それぜったい嘘だろ」

あまり見た事ないけど、どこかで見たことあるような顔をした同級生が部屋の端っこでギュッと固まってる。早口で何言ってるかよく分からないけど、新婚さんいらっしゃいってのは歓迎の言葉っぽい。
んじゃ挨拶するかな、って近付くとひとかたまりになってススッと逃げていく。暫く部屋の中をぐるぐる回ったけど、こいつらほんとなに? こういう遊び?

「猫が獲物をいたぶるようだねえ」
「オレ挨拶してーだけなのにな。裸の女の子の人形が好きなのって誰? あと必ず女の子が死ぬ漫画をいっぱい描いてるのと、百合が好きなやつ?」

「おい!! ナマエ氏!!!! おい!!!!!」
「貴様何全部言ってんだ!! なにわろとんねん!!」
「百合はワンチャンある、百合はフラワーの可能性あるから僕だけは生き残れる」

あっという間にナマエが三人に囲まれて揺さぶられまくってる。これで笑ってるんだから、ナマエも強いよな。荒れてた時代のデュースにも対応変わらなかったらしいし、自分をしっかりもってるところすごい好き。

「我々はもう談話室では寝ない! たとえナマエ氏が彼ピピとイチャついてようが、この部屋を死守する!」

「おっけー。エースも良い?」
「別にいいよ。変わんないし」

みんな気が立ってるから、こっちでいちゃいちゃしよってベッドに誘われたから、ナマエのベッドに乗る。サイドテーブルにたくさん本があるし、携帯ゲーム機もあるから特に問題は無いなって。
カーテンを閉めて半個室を作ったら、ナマエの足の間に座って背もたれにしてくっついて、おすすめの本を読んだりお喋りしたりしていつもみたいに過ごす。

カーテンの向こうですすり泣きっぽい声が聞こえたけど、ナマエが「あれはねえ、イグニハイドのゴースト」って適当言ってたから納得したことにした。いや絶対同室者達だろ、さすがにわかるよ。どうでもいいから流しただけ。


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「リドル寮長!!」
「なんだい、静かにおし」

優雅に紅茶を飲んでる寮長に突撃を仕掛けるオレと、それを宥めるナマエ。
オレが騒ぐのはいつもの事だとでもいうように、寮長は全く動じてない。いや、可愛い後輩がこんなに必死に駆け寄ってくるんだから「どうしたんだい?!」くらい言えよ。丁寧にティータイムを楽しみやがって!

「どうも、お宅のトランプ兵とお付き合いさせて頂いております。ナマエ・ミョウジです」
「おや、これはご丁寧にありがとう。面倒をかけると思うけど、これからも仲良くやっておくれ」
「オレのために寮長に挨拶してくれるナマエ、好き……。ちがう、本題間違えた。見てください、これ!」

ハーツラビュル寮長のサインが入った、正式な外泊届け。それにでっかく不可の字と、イグニハイド寮長のサインが入ってる! オレ追い出されたんだけど!! 正式な書類持ってったのに!

「オレ、ルールちゃんと守ったんですよ! なんでダメって言われるんですか! オレは『リドル寮長に許可を得た正式な書類』を提出したんですよ!」
「うちのシュラウド先輩が誠に申し訳ないですねえ……」

許せねえ許せねえとオレが騒いでると、ナマエが後ろから「楽しみにしてたのにごめんねえ」とハグしてくる。うん、オレすごく楽しみにしてた。なんでちゃんとルール守ってるのにダメって言われるんだよ。こういうのが嫌だから、からかわれてもバカにされてもオープンで「恋人です、会いに行きます」って言ってたのにさ。

リドル寮長はオレが渡した不可の書類を見て、目を細めていた。かなしい。ナマエの胸に後ろ頭をぐりぐりして「つれえ〜〜」って弱音を吐く。今度からずっとハーツラビュルに呼ぶけどいいかな。オレの部屋、ナマエが好きそうなもの少ないからな。つまんないって思われたくないな。




「こんにちは、イデア先輩。どうやらハーツラビュル生の提出した書類で、何やら不手際があったとの事。謝罪致します。後学のために、どこに『不可』の要素があったのか教えて頂けませんか?」
『ひ、ひえ〜〜!!!!』


リドル寮長のスピーカーモードにしたスマホから、ひっくり返った悲鳴が細長く飛び出してきた。ナマエが「あ、シュラウド先輩の断末魔」って言うから、あれはイデア先輩の声なんだろうけど、あの人どこまで情けない声が出るんだろ。普通に話しておけば良い声な筈なのにな。
リドル寮長の顔が完全に首を刎ねろ! の時のソレだから、静かにしておく。こういう時頼りになるから、この人は寮長やってるんだよな。

「他寮への外泊は、その寮生の同意があれば問題ないという規則が明文化されています。今回の場合、ナマエくんとエースはお互い同意がありますね?」

「失礼します、ナマエ・ミョウジが発言します。我々は交際関係にあり、トラッポラ氏の睡眠スペースは私のベッドを使用しておりました。同室者に配慮し、消灯までには就寝しております」

「ありがとう。泊まる場所の問題ならナマエくんの言うように同じベッドを使っているのなら、恋人同士の同衾は問題ないでしょう」

『クレームが来てるんですよ、風紀の乱れがですねぇ!』

「さすがに同室者がいる中でセックスをするのは問題ですが、君たちそんな恥知らずなことをするかい?」

「いやさすがにしないですよ」
「する訳ないじゃん、オレそんな見せびらかす趣味ねーし!」
「さすがに引きますわ寮長……えっちち本の読みすぎ……」

『拙者!? 拙者が悪いの!?』

「ルールをねじ曲げるというのなら、イデア先輩が悪いですね」
『ひぃ……陰キャの砦が陽キャに侵食されちゃう……守護れなかったよ……ごめん、みんな……』

ぷち、と通話が切れて、リドル寮長は外泊届けにあった不可の字を斜線で消してもう一度サインをいれてくれた。

「よく報告してくれたね。また今日みたいな理不尽を受けたらすぐに言いなさい。君たちがルールを守る限り、僕は守護者となる」
「リドパイ……男前……来世はハーツラビュルになります……」
「ナマエ、失礼だからリドパイって言うな。……ありがとうございました、助かります」

オレたちが頭を下げると、リドル寮長は優しげに笑った。この人もほんと、丸くなったよな。毎秒真っ赤になってブチ切れてたやべーやつだったのに。


イグニハイド寮に向かいながら、「ナマエの同室者、めちゃくちゃ追いかけ回していじめて上下関係叩き込んでいい?」って確認したら、ナマエも「俺も手伝う」と言ってくれた。頼れる。好き。部屋に耳を当てて中の音を確認したら、調子に乗って浮かれてる声がする。

「入った瞬間、施錠と防音な」
「任せろ」

「オラァ!!!!」 ドアを蹴破る勢いで開けたら、三人がその場で垂直に跳んだ。お前らが余計なこと言ったせいでいろいろ面倒なことになったじゃねーーか、許さねえぞコラ。
イデア先輩もクレーム来たから「めんど〜〜」って感じで適当に処理してただろ。あの人、頭がめちゃくちゃ良いのにあっさり引き下がったのは本人も『通用しない』ってわかってたからだ。オレがリドル寮長に訴え出なかったらそれまでだったけど、オレは有能で賢いトランプ兵なんでな……。報連相をしっかりやるタイプなんだよ……!

「おい、お茶会始めようぜ…………」

指を鳴らしながら近付くと、部屋の隅っこでひとかたまりになってぶるぶる震えながら「それはハーツラビュル語で……なんという意味です……?」とか細い声で聞かれる。

「『シメてやんよ』って言ってる」

ナマエが笑いながらこたえてるけど、大正解。こちとらルールを遵守する限り全てが許されるハーツラビュルだ。身体に覚えさせてやるから覚悟しやがれ。


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