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「う、ぐぅ、ひっ、うえ"えん"ん、ふ、んぐぅうっ……!!」
「ブス」
「ひどいよ、ゔぃる、っ、ん、え"ええ"ん!」
私はナマエのかわいい良い子なんだ。ずっと、世界で一番かわいいって言われてきたんだよ。大好きって、言われてきたんだ。私だって、ナマエのことが世界で一番かわいいし、大好きなんだ。ずっとそうだった。これからもだよ。ずっとずっと、だいすき。
「あのね、人の部屋に飛び込んで人のベッドをめちゃくちゃにしてる奴を放っておいてあげるアタシの優しさ、ちゃんと理解しなさい。一人で泣きたくないんでしょ」
ゔぃる、ありがとう……君は、外見のみならず内面も全てが最上に美しい人だ……。ナマエも、君をそう、褒めて、ナマエ……、っうわぁぁぁん!」
「うるさいわねえ、泣くなら美しく泣きなさい。せっかく元はいいのに、ただの子供みたいじゃない」
辛い記憶ごと魂を吐き出すように泣き声を上げて、身体を丸めた。ナマエの瞳にうつる私は、無様に縋り付くような顔をしていた。必死になって退路を駆ける獣の眼だった。ナマエは、それを見たのに、何も言ってはくれなかった。
ナマエの瞳の中に、私はいなかった。瞳にうつる像としてだけの、意味の無い物体でしかなかった。
どうしてだろう。やはり、ポムフィオーレへの転寮を相談しなかったから? 本当に? そんな事はない。ナマエは私の意志を尊重してくれる。私がヴィルの事を話す時も、嬉しそうに笑ってくれた。あの時は確かに、ナマエの瞳の中に私が居たんだ。
どうしてなんだろう。わからない。どうして何も言ってくれないの。どうしてそんな、どうでもいいものを見るみたいに、私をみるの。
「う、うぅ……っ、えぇん、ひっ、ひ、ぐぅ……っ」
ハァ……と、大きな溜息に肩が勝手にびくりと震えた。今の私は手負いのバンビだ。全てが恐ろしくて仕方ないんだ。
「ルーク・ハント!」
「……っ、」
強く名を呼ばれて、ヴィルを見上げた。シャンデリアの光にも負けない輝きは強い意志を持って私を見下ろす。
「ルーク・ハント。アナタは『なに』!?」
「私、は……」
私は……ああ、どうして忘れていたんだろう。そうだ、私は、ルーク・ハントは……。
太陽を失って闇の中に、瞳さえも涙で曇り立ち上がることも出来なかった私に、美しき月の神が道を示してくれる。ああ、そうだ。月は私たちの導き手だった。今も、昔も!
「ありがとうヴィル、君はいつも私に気付きを与えてくれる」
涙を袖で拭い、頬を叩く「乱暴にしない!」と叱られたが、今だけは許して欲しい。
「私はルーク・ハント。狩人だ。逃げる獲物を捕らえるのは、誰よりも上手なのさ」
「ええ、知っているわ」
満足そうに微笑むヴィルに、同じように笑みを返す。どうして忘れていたんだろう。逃げるなら、追えばいい。
疾うに矢は、放たれていたのだ。
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