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今の俺と過去の俺。いや、過去の俺と今の俺の擦り合わせをしているうちに、ルーク・ハントは転寮した。
「君と離れるのは本当に悲しいよ、でも俺はルークの自分の望みに忠実なところが大好きなんだ。どうかそのままの君でいて」と軽く抱きしめて、瞳を覗いて笑って見せた。完璧な俺だったはずなのに、ルーク・ハントはせっかく綺麗に整えた髪をくしゃくしゃにして「いや、どうして」とぐずっていた。なんでだろうな、パッと見捨てられたのは俺の方なのに、なんで別れ話が拗れた女みたいになってんだろ。

寮が変わればクラスも授業も違うので、同じ学園内でも会おうと思わなければ会わないものだ。寮長の「なんだ、別れたのか」というニヤニヤ笑いに「親離れ子離れですよ」と答えると、つまらなそうに鼻を鳴らされた。どういう返答がお好みだったんだろうかね。
部屋の端にはあけてもいない封筒が溜まっていて気が重い。かつての俺はどうやってこれを処理していたんだろうか、ペーパーナイフを持つのすらかったるいし、読んだら返信を書かなくてはいけないのもかったるい。
同室者達は「頼むから返信送ってやれよ、部屋に来ちゃうよ」と泣いていた。確かに、入学の時に言っていたようにあいつなら他寮にも忍び込んで来れるだろう。なんか適当な理由でも付けて絶交だとでも言おうかな。それか、そこらへんの奴捕まえて恋人にして、そっちに夢中で相手ができないとか……。

すっかり見慣れた白い封筒を指で弄びながら、今日もまたあける気になれず放り投げる。すっかり手紙を呪物扱いをしている友人たちは悲鳴をあげて、元の場所に戻して封印していた。うける。



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こっわ。

授業ですねえと鏡を通り抜けた瞬間、目の前に仁王立ちしている美貌の人がいた。完全に俺をロックオンして、指でクイクイと「ツラ貸しな」とアピールしてくる。なんだか嫌な予感しかしないけど、ここで逃げるのもなあと笑顔を貼り付けた。

「アンタ、どういうつもりよ」
「どうしたの? ヴィルくん」
「『どうしたの?』……ふん、下手くそ! 素人の安っぽい演技に、アタシが気付かないわけないでしょ。なに、怒っているの? 人に八つ当たり? 随分偉くなったものね!」
「流れるように胸倉を掴むね……」
「失礼、アタシは手が早い方なの」
「はなす気はないね?」
「逃げるでしょう?」

まあね、と喉の奥で呟いて、貼り付けていた笑顔を外す。そりゃヴィル・シェーンハイトには通用しないか。プロだものな。そもそもルーク・ハントさえ騙されてくれなかったんだ、なんの意味もないか。

「怒ってる訳じゃないんだよ、八つ当たりでもなくて……なんて言えばいいかな……」
「はっきり言いなさい」



「どうでも、良くて……」



そう、どうでもいいんだ。ツイステッドワンダーランドも、ルーク・ハントも、ナマエ・ミョウジでさえ。
全てが他人事のようになってしまった。かつて皮膚一枚向こうに張り付いていたヴェールのような不安が、それこそが現実であると突きつけてきた。今世の俺が見ていた長い長い夢から目を覚ましたら、何もかもがどうでも良くなってしまった。

「ごめんね、ヴィルくん。誰が悪いというものでもないんだよ」
「アンタが悪いだけよ」
「辛辣だなあ」
「懐かせて甘やかして突然捨てるなんて、飼い主としての責任感はないのかしら」
「ルークは猟犬じゃないよ」
「あれを『ナマエの可愛い良い子』に躾たのは誰?」

それを言われるとどうしようも無いけど、それって俺に罪があるのかな? 美しい人の『軽蔑します』って視線は身体に悪いので、へらりと笑って誤魔化そうとした。もちろん、誤魔化されてはくれないので柳眉を逆立てて威嚇されより一層の迫力美人が目の前に立つ結果となる。

「俺達は少し物理的にはなれた方がいいんだ。ね? 良い子だから分かってくれ」
「あら残念ね、アタシはナマエの良い子じゃないの」
「ですよね」

胸倉を掴み上げていた手を下からすくい上げるように持ち上げると、するりと拘束が解かれた。もうすぐ授業がはじまる、逃げる理由ができたので「ごめんね」とだけ言ってその場を立ち去った。
背後から俳優兼モデルが出してはいけないレベルの重い舌打ちが響いたけど、追いかけてこないから助かった。

気位が高い癖に面倒見が良い事で。あれじゃあそのうち苦労するだろうな。
そう言えば、ヴィル・シェーンハイトが来たのにルーク・ハントが来なかったのはなんでだろうか。逃げる獲物を追うのはあいつの趣味だったはずだけど、少しは大人になったってことでいいのかな。どうでもいいか。


どうでもいい。そう思って考えるのをやめていた。
授業も部活も終えて、いつの間にか寝ついていたらしい。4人部屋に俺以外の気配がなく、同室者達はどこに行ったのだろうと寝起きの思考でぼんやりと思う。ふと、窓から視線を感じて振り向く。

白いかんばせに、冷たいハンターグリーンの瞳。


「ナマエ」

浮かび上がるように伸ばされた手を取ることが出来なくて、無様にベッドから滑り落ちた。


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