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大切にしてくれる家族は近くにいたし、炊き出しや衣料品の配布と言った慈善事業の恩恵も受けていた。ラギーが7つになった頃からは、スラム街での青空教室というものも始まり、第一期生として文字や数字の使い方を無料で教わることさえできたのだ。
ラギーたちが住み着いているスラム街は、ミョウジサマの管理している土地に生えてきたものらしい。もともとは何も無い畑も作れないような枯れた土地に、どこからか集まってきた根無し草達が居を構え、勝手に街とまで言うようになった。
とんでもない話だ。ミョウジサマはお貴族サマなので、武力を持って税金も払わない寄生虫共を駆除すれば良いものを、「彼らも私たちと同じ、夕焼けの草原の仲間だ。大人は子を育み、子供はいずれ大人になり、きっと夕焼けの草原に何かを返すだろう」とあまっちょろいことを言って存在を許した。
そればかりか、率先して炊き出しの指揮をとっている白い肌をした美女はミョウジサマの奥方だし、青空教室でガキどもの補助をしてまわっているのはラギーと年がひとつしか変わらないミョウジサマの御子息だ。
ラギーより数百倍上等な服を着て、まともに風呂も入らない上に学もないガキ相手に「ラギーは計算が正確で早いね」だとか、褒める場所を見つけてすぐに褒めてくれる。
ラギーは目端が利いて賢かったので大人にはよく褒められていたが、同年代の子に褒められるのはなんともむず痒い気持ちになったことを覚えている。決して嫌というわけじゃなかった。
一期生に選ばれたのはラギー、エイミ、ジュド、カイル、アーロン、ティガの六名。ラギーとエイミとジュドは同い年で、カイル、アーロンはひとつ上、ティガはひとつ下。この六名が国の法で定められたエレメンタリースクール卒業の規定に合格すれば、ミョウジサマがその実績をもって城に掛け合い学校の創設がされるらしい。エレメンタリースクールさえ卒業出来れば、ミドルスクールにも、その上にも通うことが出来る。
「君たちが学んだことは誰にも奪えない。いつか君たちが、この街の出身者だと胸を張って言えるような場所にしたいんだ」
ミョウジサマの御子息、ナマエサマはそう言って恥ずかしそうに笑って、この人がオレたちのボスになるんだと思っていた。優しくて真面目で、ちょっと頭が固いところがある。だからオレたちでそこをフォローしていって、みんなでスラム街を『まとも』な街にしてやろうぜと夢のような話をしていた。夢は夢なのでいつか覚めると、誰も教えてくれなかった。
ある日突然ガシャガシャした鎧をつけたやつらがやって来て、領主館の周りが騒がしくなった。婆ちゃんに「隠れてな!」と床下に押し込められて、なにか恐ろしいことが起こっているということだけは理解できる。悲鳴や怒声が沢山聞こえて、ナマエサマは無事だろうかとだけ考えていた。もうほとんどの授業を終えて、あとは復習だけになっている教科書を抱きしめる。ひしゃげた上に濡れて滲んだので、もう誰にもお下がりとして渡せない。
ラギーは青空教室でいろんなことを学んだ。沢山の知恵がついた。だから理解してしまった。
ハンギャクザイは、反逆罪。ザンシュは、斬首。
言葉の意味かわかってしまった。きっともう、あのお優しいお貴族サマは、オレたちのボスは、いなくなってしまったんだろう。なにがどうしてそうなったのかは分からない。大人のやることは、ラギーにはまだ難しい。
「ナマエサマ、死んじゃったのかな……」
次に会ったら、オレのテスト返してくれるって言ってたけど、返ってこないかな。100点取れたと思ったんだけど、ダメかな。
奥方とナマエサマはどこにもいなくなって、ミョウジサマの首は領主館の前に転がされていたのを大人たちが回収して、隠すように墓場を立てた。
その後何度か変わりの領主が来たらしいが、スラム街なんてものを背負ってる土地に価値はないらしくいつの間にかいなくなった。ミョウジサマの政策のせいで、小賢しいスラムの住人が多くなりすぎたから嫌われたらしい。知ったこっちゃない。
病院も衣料品の配布も炊き出しも、青空教室も無くなった。ラギーは賢かったので、自分で勝手にミドルスクール相当の勉強をしていたが、そのおかげかなんなのかナイトレイブンカレッジという名門校に選ばれることになる。本当に、人生とはどうなるか分からないことばかりだ。
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