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スラム街で学んだことはナイトレイブンカレッジでも大いに役立った。治安の悪さはスラム街同等と言えど、所詮おぼっちゃま達ばかり集まっている場所だ。舐められて隙をついて弱みを握ったり財布をスったり。
サバナクローの寮長が故郷の王子サマだったことは驚きだったが、都合が良かった。しばらく人となりを観察したが、レオナ・キングスカラーは身内には寛大だ。敵対せず、役に立つことをアピールすると働きに見合った報酬を与えてくれる。ありがたいボスである。

ラギーは彼に対し忠実に仕えた。もちろんマドルという報酬と引き換えであったが、知恵と器用さを駆使し、時には彼のユニーク魔法でうっかり殺されかけたりしても忠実だった。そこら辺の十把一絡げよりは重用されていると自信を持って言えるくらいになってから、ようやく聞いたのだ。「ミョウジサマは一体『誰』に反逆したんですかね?」と。

首を落とし家族をも連座となるような『反逆罪』とは、いったいどこの法律ですかね? 少なくとも、夕焼けの草原にはそんな法律はないみたいっスね。 オレの故郷、いつの間に夕焼けの草原から外れたんスかねえ?



ラギーは賢いので、学園に入学してから沢山の本を読んだ。
スラム街では到底手に入らない知識達は、どれひとつとしてミョウジサマが死んだ理由を教えてくれやしなかった。戦争中に敵と繋がっていた貴族は首を落とされたらしいが、街同士の小競り合い以外の戦争なんて、ここ百年は起こっていない。
偉大なる獅子の王が守る夕焼けの草原は、ある意味一番死から遠いところにあった。

「ね、レオナさん。王族なら分かるっスよね。オレの街を管理していたミョウジサマ。どうして突然いなくなっちゃったんでしょう」

ラギーが言葉を重ねると、怠惰な獅子がため息をついてのそりと立ち上がる。この人は身内にはとにかく優しい。大きく欠伸をして「しばらく出かける」と部屋を出ていくのを「いってらっしゃーい」と手を振って見送った。
ドアが閉まる音を聞いて、しばらくしてからしゃがみこんで少しだけ泣いた。ここまで来た。ようやく来た。あともう少しだ。

ナマエサマが居たら、きっとロイヤルソードアカデミーあたりの馬車が迎えに来ただろうなあ。
絶対ナイトレイブンカレッジじゃねえっスもん。で、次の年にオレのとこにはここの馬車が来て、「なんでナマエサマと同じとこじゃねえんだよ!」って馬車に蹴りを入れる。

エイミも頭が良かったから、どこかの学校に入っていたかもしれない。ジュドはバカだから無理か。カイルとアーロンも性格がナイトレイブンカレッジ向きだ。ティガだけはロイヤルソードアカデミーに入れそう。

エイミは人攫いにあっていなくなったし、ジュドは冬に風邪を引いてそのまま死んだ。カイルは殺人未遂で捕まったし、アーロンも追い剥ぎして逆に殺された、ティガだけはまだいるけど、どうせオレらみたいになる。


「夢なんて見せるからぁ……」

掃き溜めみてえなところに産まれたのに、まともになれるだなんて綺麗な夢見せてくれちゃうからさ。ひっでえの。
学なんて付けさせるから、知恵なんて与えるから、オレたちみんな、自分が『可哀想』だなんて気付いちまった。それでもみんな、ミョウジサマたちのことはずっと大好きなんだよなぁ……。憎ませてくれないから、いつまでも苦しいのにさ。

ぐすぐすと泣いて、泣き疲れて、寝た。本当に嫌になるが、悲しいことや辛いことがあるときには必ず幼い頃の夢を見る。仲間たちが全員いて、良い服を着た少し背の高いナマエサマがみんなに声を掛けている夢だ。

ラギーは計算が早い。エイミは発想力がある。ジュドはよく気がつく。カイルは優しい。アーロンは責任感がある。ティガはみんなのことをよく見ている。

オレたちはそんな言葉をむず痒く思いながら、「ナマエサマは優しい!」とティガが言う言葉にそうだそうだと頷いた。人を気軽に褒めるくせに、褒めかえされるとすぐ顔を真っ赤にして照れていたのを覚えている。忘れさせてくれないから、ひどい。




「おい、ラギー。やる」

「うわわわわ!」


数日後にふらりと帰ってきたレオナが「おかえりなさーい」と言う途中のラギーに、何かを投げ渡してきた。皮袋に入ったそれからは、鉄の嫌なにおいがする。

「うわぁぁ……ええ……受けとんなきゃダメっスか……?」
「捨ててもいいぞ」
「処理してきて下さいよ……」

しぶしぶ、おそるおそる、袋をあけると鉄のにおいが濃くなる。鼻が曲がるというのはこういうことなんだなと分かった。中身は正しい形を失った尻尾と耳だ。多分これは、猫系の獣人だと思う。細切れなので分からないし、確認したくない。


「こっちは土産だ」
「土産!? じゃーこれなんだったんスか!?」
「俺が仕事をこなした証拠に決まってんだろ。手間掛けさせやがって」
「純粋な嫌がらせっスね!」

皮袋をまとめて床に投げ捨て、土産と言われた紙の束を受け取る。調査書と書かれたそれには、王族の印章がおされていた。


「……はは、やっぱり」


ミョウジ家当主、冤罪により私刑。下手人を国家反逆罪として処刑。

たくさんの文字の中からそれだけが浮かぶように目についた。ぐちゃ、べちゃ、ぐち、なんだか足元から濡れた音がするなと思ったが、それは自分が無意識で皮袋を踏みつけにしている音だったらしい。「証拠があった方が嬉しいだろ」と笑うレオナに、ラギーも「そうっスね。助かります」と笑顔で返した。生きた状態で丸ごと持ってきてもらった方が嬉しかったが、さすがにそこまでは望めないだろう。
こいつが、こいつが、お前のせいで。
たくさんの感情が喉元まで競り上がり、それを無理やり飲み込んだ。グチャリ、足元からは濡れた音が止まない。ラギーは賢い頭で、学園で学んだことを思い出していた。死者の魂を苦しめる呪いって、どういうのがあったスかね。あったはず。なかったら作る。絶対作るからな。


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