うちの一期が見習いの胸を鷲掴んだはなし
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やあ僕善良な審神者マン!自他共に認める優秀な俺の本丸に見習いが来ることになって…?
乗っ取りとか一時期流行っていたけど、いったい我が本丸はどうなっちゃうの〜〜〜!?
答:普通に良いとこのお嬢さんが来て普通に学んで普通に明日で卒業
さにちゃんや審神者同士の根拠のない有象無象の情報に踊らされていただけで、俺の初師事は平和に終わりそうで何よりだ。
見習いとして来たのは政府の役人の御息女かつ美少女で、近侍の長谷部と「ちゃれんじで見たぞ…例のアレかもしれん…」「処しますか?処しますか?」とわちゃわちゃしていたが、そんな俺たちの妄想が申し訳なくなるくらいに良い子だった。
五年後には立場を抜かれているかもしれないが、弟子は師を超えるもの…これでいいのじゃ…。
と、15分前の俺はしんみりしながら見習い受け入れに関する報告書をまとめていたわけだ。
ここまでは平和だった。なんか外からギャーギャー聞こえるけど、同じ部屋にいる長谷部は無言で俺の誤字確認に徹底していたので危ない事ではないと判断。
ああ今日も宗三が悪さして江雪に和睦喰らってんのかな…とか、宗三がまた対して罪のない鶴丸の悪戯に過剰反撃して江雪に和睦喰らってんのかな…とか、きっと宗三が暇潰しに長谷部に喧嘩売って江雪に和睦を…いや、長谷部はここにいるからそれはないか。とにかく宗三が何かをしていると思い込んでいた。まあ、いつもの平和な午後である。
わーわーぎゃーぎゃー
「そうだいちにい!もっと締めあげないと死なねえぞ!」
「薬研は黙れ!!」
わーわーぎゃーぎゃー
瞬間、俺は部屋を飛び出した。
あれ絶対プロレス観戦しているレベルの歓声じゃない。薬研の楽しそうな煽りと、直後に厚が薬研をぶっ叩いたような怒声と音。嫌な予感しかしない。
その物音は審神者部屋前に緊急で建てた、見習い用の離れから聞こえていた。
見習いの世話は人当たりも物腰も柔らかい一期一振に任せていた。あいつなら問題なくやってくれると思ったのだが、一体何があったんだ!ま、まさか本当に乗っ取り?!俺の知らない呪いの品とかであんなことこんなことが!?ああああああ頼りない主をゆるしてくれすぐにたすけえええうわなにこれこわかえりたい。
「貴様はこの一期一振に主に背けと、そう言うのか!
元は刀といえど今は人の肉を持つ心有る身。随分と嘗められたものだな…我が忠誠、貴様なぞに欠片もやらぬ!!」
「一期!!!とりあえずステイ!ステイ!よーしいい子だ刀置いてステイィィ!!」
「あ、主殿…!お恥ずかしいところを…」
俺の登場に照れたような微笑を浮かべる一期一振さんLV.99は、左手で軽々と胸倉を持ち上げていた見習いをそのまま床に落とした。腰が抜けたまま号泣しながら這ってくる見習いをキャッチ&長谷部にリリース!!「主命!」と言えば以心伝心に「かしこまりました」と恭しく保護してくれた。
「待って落ち着いて何がどうした!?あれか、乗っ取りとかそういうやつ!?ねえ俺そういうのこうなるって教えたよね?なんでやっちゃった?!」
「ぢが、ぢがいまずううっ!の、のっとりなんでえ、かんがえ、ま…考えてもお!いまぜんっ!!」
女の子のマジ泣きを初めてみたので若干引きつつ、今度は一期に話を聞く。あざとく頬を膨らませて「遺憾の意ですぞっ」みたいな顔してるけど、お前すっげえ怖いからな。
一期と燭台切が怒ると完全に武士語になるとこ、マジで怖い。もっとワンクッション置いてほしい。
「見習い殿は、言うてはならぬ事をこの一期一振に申しました。ゆえに、さすがの私も辛抱できずにこのような事をしてしまいました。主殿に御迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませぬ」
「その『言うてはならぬ』とこが重要だから。なんて言われてお前は怒ったんだ?」
「私の口からはとても。酷い侮辱ですな!思い出すだけで血が逆流するような…」
「あー、大将。俺から言っていいか?一応現場に居たって言うか、デバガメしていたんでな」
何かはわからないが、見習いは盛大に一期を怒らせたらしい。
普段はとても温厚な一期がこうなるなんて、どんな魔法の言葉なんだ…。
振り返ってみても、見習いは畳に突っ伏して号泣している。
長谷部さんハンカチくらい貸してあげてください。えっ「主から頂いたはんかちーふですのでそれはなりません。汚れてしまいます」と…。ああ、かわりにトイレットペーパー持ってきてあげたの…そう…優しいね…。
一期が大暴れしていた時に、近くでステイ!ステイ!と抑えていた弟たちと、ただ一人のんきに観戦していた薬研。申し訳なさそうに兄の後ろで一緒に正座する粟田口の短刀の中、男前通り越してなんかもう心がおっさんと化してきている薬研がズバッと挙手をした。あれ?そういえば俺の本丸で図太すぎるくらい図太いのってみんな織田とかかわりがある…?信長さんあなたどういう躾をしていたんです…?
「はい薬研くんどうぞ」
「見習いの嬢ちゃんが」
薬研が力強く見習いを指さす。トイレットペーパーまみれの見習いがビグンと震えた。かわいそうなのでそっと視線から庇う。
「いちにいに惚れて「自分の刀になってほしい」って言ってな。
俺達もこりゃあ噂の乗っ取りってやつかと思ったんだが、嬢ちゃんはただ惚れた男を傍に置きたかっただけみたいだな。それでいちにいが切れてこうなっちまった。…いちにいもな、三回までは我慢してたんだぜ?
…あんまり怒らないでやってくれ。俺っち達からしたら、これは酷い侮辱なんだ。『主を捨てろ』『謀反しろ』と同じ意味なんだ。大将の刀として生まれたのに、これはあんまりにも酷い話だ。こんな悲しい事、いちにいだって自分の口から言えねえよ」
「わ、わだし、そんなつもりじゃ…!」
「うんうん、そうだな。あんたはただ一人の男に惚れただけだ。
だが俺達は刀剣男士。一本の刀だ。しかも知恵と肉を持つようになっちまった。そんな俺達を主の元から取っていこうとすると、こうやって強盗扱いされるんだぜ」
盗人は斬られても仕方ないよなと豪快に笑う薬研につられて、他の短刀もくすくすと笑いだした。見習いの顔は真っ青である。一期は相変わらず「遺憾の意ですぞっ」の顔をしているし、長谷部は俺の後ろでキチンと待機をしている。
「刀剣男士ってこういう感じだから…付き合うなら人間の方がいいよ。……審神者用恋人募集サイト教えてあげるね」
無言で震えながら頷く見習いにそっと羽織をかける。暖かいお茶でも淹れてあげよう…。
翌日、逃げるように卒業していった見習いの背を見送ってからお説教を開始。
「こういう場合は一人で解決しようとしないで俺に言いなさい。報告連絡相談!ホウレンソウ!」と軽く叱ったが、しょんぼりした犬のような眼をして「申し訳ありません…」と謝る一期にはたぶん俺の真意は五割くらいしか伝わっていないと思われる。
一人で解決はつまり、「ここでお前を殺す」がデフォなのだ。
たぶん一期は「お見苦しいものをお見せしてしまった」と反省しているだけだし、きゃっきゃと見習いを見送った乱と秋田も悪気の欠片ひとつなく「こうなったのは仕方ないけど主に迷惑かけたのはいけなかったね」と言い合っていた。言い換えればバレないように秘密裏にやるのが一番だと言っているので、刀剣男士を人間と同じもののように見てはいけない。死亡フラグだ。
人を殺せる刃物の神様が万人に優しい訳がない。清廉潔白で人当たりも物腰も柔らかい一期でさえ、根底では『審神者』と『刀であった頃の思い出の人間達』と『その他人間』で大まかに三種類にしかわけてない。今回のこれは俺のミスでもあった。任せきりにするのではなく、もう少し他の刀剣とも関わらせてやるべきだったか…。
失敗失敗。次はもっとうまくやろう。
「次はお互い気を付けような」
「はい!一期一振めにお任せください!」
見習いを受け入れるのも思ったより楽しかったし、男士達も喜んでいた。
次回が楽しみだとウキウキしていたのだが、史上稀に見るすっっっげえクレームが入ったらしく割とガチで役人さんに怒られた。酷い。生かして帰しただけありがたいと思ってください!?!危うく絞め殺されかけたところを助けてあげたんですよ!!感謝してもし足りないでしょう!!!
世の中は無情だ。もううちに見習いは来ないかもしれない。時代に置いていかれる感がすごい。さにちゃんで元見習いらしき人が立てた俺の本丸の事と思われるスレッドを眺めて寝ころぶ。その背中に一期がマントをかけてくれた。わあ…思った以上に重いんだなコレ…寝難い…。
「恩知らずですな、消しますか」
「やめなさい」
神様って怖いなあホント。
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