寿退職を目指す女審神者と痴漢に電車で尻を揉まれる光忠のはなし


 私は『結婚できない女』だ。
職業柄出会いは少なく、見えない派閥争いもある。
その為、知り合いの伝手を頼ってお見合いをすることにした。

 最初のお見合い相手は人柄も良く、日本号探索に先行で駆り出されるような優秀な審神者だったけど、弟さんが何故か現世で刀剣関係のトラブルに巻き込まれたそうで、最高級の菓子折りと詫び状が送られて破談となった。三回もデートしたのに!デートしたのに!
二回目のお見合い相手は少し年下だったが、素性もしっかりしていて本人も見ていてわかりやすい性格をした審神者だった。なにより彼の連れてきた青江が全力で主の売り込みをはじめたあたりで、彼も私と同類。つまり結婚相手熱烈募集中だと確定。これは良い感じだと思いきや、彼の本丸の宗三左文字が登場。私は顔面に毒霧を喰らってそっと帰った。たとえ彼が乗り気で結婚しても、あのタイプの宗三左文字は厄介な事になる。

「こんなの可笑しい…。何故?ちょっと理解が追い付かない…。私レベルの美女が婚活で悩むとか大丈夫?世界崩壊するかんじなの?歴史修正主義者のせいね殺す」
「そうだね…。たぶん歴史修正主義者のせいだから殺してくるよ」
「光忠よろしく」
「OK!格好良くやりたいね!」

 おそろいの手鏡でお互いに髪のはねや肌荒れチェック、身だしなみの確認をしていた第一部隊隊長の光忠に出撃を命じて、一人で部屋に戻る。そういえば刀剣男士は審神者に似るっていうけど、だったら二番目にお見合いをしたあの審神者の本質ってあの宗三左文字と同じなのかも。そう思うと別に悔しくなんてない。悔しくなんてないんだから…!

 でも、しかし、やっぱり。
審神者って婚活難しい!やだやだ30になる前に結婚するって幼稚園の時に決めたのに!お母さんが私を生んだ年を超えてからの焦燥感がすごい。やめて。つらい。
金か!金ならある!もういいよ金目当てでも最終的に子供が産めれば!結婚したという実績と我が子が欲しい!
 審神者女子はこういう場合、自分の刀剣男士に惚れるらしいけど、ゴリラでさえ一緒に育った異性を兄弟姉妹と認識するのに、別方向に進化したとはいえ類人猿の形をとった刀剣男士が、顕現したその日その瞬間から一緒にいる私を異性として見るわけがない。
仮に私が光忠に惚れて「けっこんしてください」と迫ったら、光忠は綺麗に土下座して畳に頭をこすりつけながら「ちぇんじ」と言うはず。あいつはそういう刀。六年間一緒にいる私が言うんだから間違いない。


「やっぱり審神者を辞めるしかないか――…」
「OK!しっかりした人間に引継いでくれ!」


 気が付いたら日は暮れて、カラスの声と共に帰還した光忠が返り血もそのままに戦果報告をしに来ていた。
独り言をさわやかに肯定され改めて思ったんだけど、これ―――良い案じゃないかな?流石にこのまま「はいやめます」っていうのは担当さんに正論で往復ビンタされてしまうけど、もし…もしも私が現世で恋♡に落ち、「彼と一緒になります♡♡」と退職届を出せば…そうすれば、私はこの婚活サハラ砂漠である審神者を辞めて現世で嫁げると…!?

「者共今夜は宴会よ――!!私の暫定寿退職祝いよ飲めや歌え舞い踊れ――!!明日現世の結婚相談所行くから光忠はお供よろしく」
「任せて、僕がちゃんと君の伴侶を見つけてあげるから…!結婚式では長谷部君と一緒にテントウ虫のサンバを歌い上げるね!」
「楽しみにしてる!」

 私の声に引き寄せられた刀剣達がせっせと会場設営をしている中、速やかに結婚相談所へ予約の電話をいれた。今の人口比率だと男が何万人か余るから、この勝負勝ち目しか見えない。控えめに言って美人な私が審神者業で稼いだ大金を背負っていたら、結婚できない理由がない。

「この世で一番美しい審神者は誰かしら!!」
「主!」
「大将!」
「主殿!」
「よっ!日の本一の良い女――!!」
「おーほっほっほっ!もっとよ!もっと自分に素直になるの!貴方たちのあるじは〜〜〜〜??」

「「「「物言う花の如し―――!!!」」」」」

「今夜も無礼講――――!!」

 大喝采の中、上体をのけぞらせて高笑いをしていると、光忠は手鏡で自分が一番格好良くうつる角度を確認しながら、しみじみとつぶやいていた。

「僕達って主の性格にだいぶ感化されているけど、君の結婚相手もこういうてんしょんの人じゃないとね」
「ちょっと何言ってるのかわからないわね」

貴方たちみたいな疲れるテンションの伴侶はノーサンキュー。




 翌日、宣言通りに結婚相談所へ向かったはいいけれど、あまりにも見慣れ過ぎて忘れていた。光忠が良い男だという事を。
こっちは本気で結婚相手を探しているというのに「え?隣のイケメンでいいんじゃない?」とか「そのイケメンがフリーなら寄越せ」という視線がうるさくてエントリーだけしてさっさと撤退する羽目になってしまった。なんていうこと。でも、光忠以外にしようにも刀剣男士はみんな顔面偏差値がえげつない。恋愛対象にはならないであろう短刀を連れて来たら、完全に私の連れ子となってしまう。かと言って護衛無しだと非力で繊細な私はすぐに下種で卑劣な歴史修正主義の豚共に狙われてしまうだろうから、結局のところ最高練度で一般人慣れもしている光忠に頼むしかない…。

 久しぶりの現世を満喫しようと電車に乗ったのも、今になって後悔。
そういえば今日、祝日だった…。そして都会、込み過ぎよ、なにこれ…。苦しい…。痴漢とかされたらどうやって相手の腕の関節を逆に折ればいいの?こんなに人が込み合っていたら、折り曲げる空間がないから握り潰して粉砕する事しかできないわ…やだ、怖い…。

「……ねえ、ちょっと確認したい事があるんだ」
「なに?」
「今ある、…きみ、僕のハムストリングスあたりを揉みしだいていないよね?」
「なにそのおいしそうな部位。怖い。近寄らないで」
「待って護衛から逃げないで。ああ、うん…わかりやすく言うと内腿とか股間周辺なんだけど…そうか、君じゃないのか…。やだなあ、光忠のみつただを誰が触っているんだろう・・・」
「痴漢やないかコルァアア!!!」

どこか悲しげにあきらめきった声を出した光忠の代わりに、背後から光忠のみつただへと魔の手を伸ばす謎の手を握りしめた。オルァ!!私の握力は68キロあるぞコルァ!!
悲鳴を上げる痴漢の腕に関節技をキメながら「痴漢です!この人痴漢で――す!」とアピール。その間、光忠は遠い眼をして吊革の上の棒の部分を握ったまま微動だにしていなかった。彼なりにショックだったんだと思う。自分の刀剣のかたきは自分でとる!という建前は捨てて、お前、お前・・・おまええええええ!!

停車した駅のホームに引き摺り下ろし、何か言い訳を口にしようとした痴漢の胸倉を掴みあげてほぼゼロ距離で視線を合わせた。

「隣の雌よりこの雄尻が良かったんかワレェ!!!」

ここに妙齢の!むっちむちの尻があるだろうがよおおおおおおおおおおおおおおお!!!
私のシャウトに痴漢は泣きながら土下座を繰り返すロボと化した。

「謝ってくれ!ある…っ、この方は今繊細な年頃なんだ!!僕の方が性的魅力があったとしても!!一撫で位は礼儀だろう!?」
「みつただころす」
「えっなんで!?」
「痴漢死すべし。ただし私のプライドは今ズタボロよ」
「えーっとえーっと……僕で良かったら、さ、触ろうか?」
「ぶっころすぞ」
「君のせいだよ!?どうしてくれるんだ!」

「本当に申し訳ありませんでした」

土下座したままぶるぶると震えて動かなくなった痴漢の前で、光忠の尻をスパンキングしつつ「この尻が!誘ったんか!!このいやらしい尻が!!!」と八つ当たりを続けたら、鉄道警察が登場。


何故か私が連行され、担当役人さんが道端で落ちているバッタの死体でも見るような眼で回収しに来てくれた。

ちなみに痴漢は自首して罪を償い、私の元にはあの日以降結婚相談所からなんの連絡も来ていない。



「これも全部・・・」
「歴史修正主義者の糞虫共のせいだね!OK任せてくれ、奴らの息の根を丹念に止めてくるよ!」


ああ、今日も、

私は結婚できないまま、一日がはじまっていく。


←前 main|top 次→