≫72 しあわせになあれ♡
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目の前の席に座っていた男は怒声を上げ、横にいた女からは嗚咽が聞こえた。
俺は吐き気を覚えてそれを飲み込むのに必死で、現状がよく理解できていない。頭の奥の冷静な部分が、備前のどこかにいるとある審神者の行動を思い出していた。手元にはおぞましい蟲の写真と、細かい文章がつらつらと書かれている。噛みしめ過ぎた唇から血の味がしたが、どうでもいい事だった。
目の前の男が叫ぶ。「嘘を吐くな!!あいつらはクソみてえな裏切もんだろうが!簡単にホイホイ主を変えるようななまくらだ!」血を吐くような声だ。そうであれと願うような、絞り出したような悲鳴だ。
そうだ。俺を捨て主を変えた彼らは、酷い裏切り者であるべきなんだ。
簡単に主を変えて、共に過ごした年月を捨て去った。
人の形をしただけの非情な生き物であるべきだったんだ。
「嘘だって、言えよ…!頼む、お願いだ。蟲なんて、呪いなんて嘘だろう?今言ってくれたらもう怒鳴らねえよ。
なあ頼む。本当のことを言ってくれ。あいつらは裏切り者で、今もあの本丸で新しい主の下で、ちゃんとやってるんだろう?なあ、」
「以前の本丸ナンバーは10120番ですね」
「……ああ」
「そこにはもう、本丸はありません。全ての刀剣男士は破壊されています」
役人に食って掛かっていた男は、腰を抜かしたように床に座り込んでしまった。
隣の女からは刀剣男士の名前が嗚咽交じりに聞こえ出る。ここにいるすべての人間の顔色は最悪で、きっと俺の顔も同じようなものなのだろう。ゆるしてくれと、誰かが呟いた。ゆるして。ゆるしてください。お前たちを信じる事が出来なかった。逃げてしまった。俺の目玉は何も見えていなかった。
初期刀は山姥切国広。霊力の乏しい俺の呼び声に応えてくれて、常に傍にいてくれた。
俺が一人を嫌がる性質だとわかっていてくれたのだろう。本当は一人の時間を欲しがるような性格なのに、俺を優先してくれた。俺の山姥切は甘いものが好きで、たいやきを買ってくるとすぐ桜の花びらがゆるく降る。刀剣男士っていうのはわかりやすいなと笑うと、布を深くかぶって恥ずかしがっていた。
鍛刀で顕現したはじめての刀は脇差の鯰尾藤四郎。彼がいるだけでその場にパッと光が灯るような、明るくにぎやかな性格をしていた。
でも、自分のことはいつも後回しにして気を使ってしまう節があったので、よく注意してみていたんだ。俺が見ているとわかるとまた空元気をしてみせる。いつもありがとうと言った時、桜の花吹雪が出来たっけ。彼を喜ばせるにはこんなに単純な一言でよかったのかと、驚いたんだ。
ああ、ほかにもたくさんいた。4年間ずっと、俺が顕現し俺の為に刀を振るってくれた。
なぜあの時、彼らが俺をその刀で殺さなかったのか。ちゃんと考えていればよかったのに。
気が付いたとき、俺は2つ目の自分の本丸で目を覚ました。
眼の上には冷たいタオルがあてられていて、それを外すと2本目の初期刀である歌仙兼定が静かな眼で俺を見下ろしている。
「大丈夫…ではないね。詳しくは聞かないよ、聞かれたくないことだろう?」
「ああ…ありがとう」
「みんな君の様子がおかしい事を心配していた。明日には元気になるかな」
「どうだろう、ちょっと俺にもわからないんだ」
新しく水を絞ってくれたタオルを瞼に押し当てて、眼を閉じる。
身体の中から蟲に食われるというのはどれほどの痛みなのだろうか。まだ思考はぼんやりとしていて、考えがまとまらない。乗っ取りにあった審神者は【特別に優しい性格】を狙われたと言われた。優しいから、最後は刀剣男士の意思を汲んでしまうだろう相手を選んだのだと。
自分の長所はそれだけだと思っていたのに、これでは何の意味もない。俺は長所ひとつもないクズか。そうか。俺より優れた人の下で、なに不自由なく過ごしていてくれてると信じていた。頼りない主人を捨てて、もっと良い環境で生きていくのだと信じていた。昨日までずっと信じていた。あのスレッドを見た後にだって、俺は信じ込んでいた。彼らはみんな幸せなのだと。
いつの間にかまた寝ていたらしい。俺の手を握り座ったままで寝ている歌仙を見上げる。こうして見ると幼い顔つきをしているのか。
いつだったか、俺がまだ審神者になったばかりの頃、風邪を引いた。
あの時は山姥切もこうやって俺の横で座ったまま寝ていたっけ。声をかけると頑なに寝ていないと言い張っていた。
廊下に出たら鯰尾は廊下に布団を敷いてぐーすか眠りこけていて、「心配したんですよ」と笑った。
やさしい子たちだったなあ。
その時、自分は何て幸せ者なんだろうと思ったのに、だいすきだったのに、なんで忘れてしまったのかなあ。
「ゆるしてくれ…」
刀を握る者のかたい掌に縋った。この手は、みんな同じだ。
「許して…、助けて。…苦しいよ、助けてください」
神様助けてください許してください彼らを助けてください救ってください
優しい子たちだったんです酷い事なんてやめてください苛めないでください
悪いのは全部俺だったんです自分の弱さのせいであの子たちは苦しんだのです
どうかどうか許してください救ってくださいお願いします助けてください
俺は死んでもいいんです許してください
「ゆるして」
「君は赦される」
彼らはみんな、君を赦し愛しているよ。
歌仙はそう言って笑った。
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994 備前の審神者
こんなクソスレさっさと落とせよ
集会から何日経ったと思ってんだ
緊急連絡だ聞いて拡散してくれ
995 ななしのさにわ
?!
996 備前の審神者
本丸乗っ取られ審神者に告ぐ
お前らの二個目の本丸にいない刀剣男士の内 縁の強い刀剣男士の分霊が蟲から解放された
随時Kさんが送り出しているので鍛刀しろ 尚この情報は次回の集会に発表される
997 ななしのさにわ
上の方で居たよな?まんばとずおのやつ!
998 ななしのさにわ
連絡網使い切るわ!!!!!!!信じてるからな!!!!!
俺の清光が帰ってくるって 信じるからな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1
999 ななしのさにわ
Kさん結婚して!!!!!!!!!!!!!!!!1
1000 備前の審神者
1000ならみんなハッピーエンド♡
1001 ななしのさにわ

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