門を叩くもの
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うら若い少女の姿をしているというが、そのような知り合いはいないので、門の守りをしている太郎太刀次郎太刀兄弟のはなしを捨て置いていた。
通りすがりの浮遊霊かと思っていたのである。門を開けずに無視しておけと命じてから半月、そういえばあれはどうなったかとふと思い出したついでに聞けば、なんとまだ来ているという。
浮世離れした聞き分けのいい兄が「主の命を全うしなさい」と素直に、半月もの間、門を叩く音を無視して処理をしていた。兄よりは浮世に慣れている弟は律儀に「入れらんないよ。帰りな」と顔を出して追い返していたというが、そんなに真面目に対応しなくても報告してくれたら俺が行っていた。
こんなにしつこい浮遊霊はありえない。きっとどこかの誰か、たぶん歴史修正主義の無法者が俺に向けて送った呪いか何かだろう。やろうてめえいい度胸だぶっころす。
生来より短気な性質を持っている。普段は刀剣男士を従え、上に立つものとして弁えているが、俺の守る俺の本丸に手を出す輩は必ず殺す。
「ほら、来たよ」
悪そうなやつじゃないんだけどねえとほろ酔い気分でいう次郎太刀に、「悪そうな顔をしている悪いやつの方が少ない」と、俺の今までの人生で学んだ真理を説く。
トントンと門の重厚さから考えると違和感しかない軽い音が響いていた。
「誰だ!!」
「お前じゃない!!」
大太刀兄弟が力強く開門した瞬間に、不審な訪問者を怒鳴りつけた。と、同時に怒鳴り返された。目の前には十五歳ほどの、髪を結い上げた着物姿の少女が立っている。
「ああ、今日もほんに……すてきやわぁ」
そして目の前で溶けるようにすぅっと消えていく。その顔はたしかに、俺ではなく背後の次郎太刀を凝視していた。
呆然とする俺の背後で、いつでも刀を抜ける体勢で見守ってくれていた太郎太刀が「おや、」といつものトーンでつぶやく。
「現世から緊急のお電話ですよ」
「え?」
祖母の死の連絡であった。
半月前に倒れ、今までよくもったものだと。審神者として現世を離れている俺には、心配かけないように、何かあっても連絡をするなと言われていたらしい。
祖母の棺には、少女の頃からずっと好きだった歌舞伎役者のブロマイドが入れられていた。俺も知らなかった趣味だ。
親族で集まった時に、祖母の昔の写真を見た。白黒であったが、たしかに門を叩いていた少女だ。
そのことを伝えれば、皆がしんみりとした様子で「最期に孫に会いたかったんだろう。お前のことを可愛がっていたから」と口々に言われたが、たぶん、違う。いや、最初はそうだったのかもしれない。
「アタシのせいかなぁ?」と不安げな次郎太刀に、それはないと静かに首を振って伝えた。
歌舞伎の女形のブロマイドばかり大量にコレクションしていた祖母の目当ては、俺ではなく、次郎太刀だったのだろう。お洒落をして一番良い時の姿でいそいそと会いに行っていたのは、俺ではなく次郎太刀。可愛がっていた孫の俺ではなく、素敵な女形の姿をした刀剣男士の次郎太刀。
祖母の死因は、門を開け放して次郎太刀の姿を間近で鑑賞出来たことによる満足死。
「なんか……ごめんよ……」
「いや……肉親の情というものについて考えたいだけだから……大丈夫……」
祖母の乙女心がその死後も孫の心を苛む。「お前じゃない」って……その最後の言葉はあんまりだ。肩を落とす俺を、次郎太刀は居た堪れないといった表情で見つめていた。
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