きらきらさん


 厚樫山には、それはそれは立派な姿の若者の霊が出る。
美しい着物を着た公達や、勇ましい武者など様々な姿をしているが、皆一様に人で無しの顔をしているのだ。
 あれは人では無い。あんなに美しい顔をした人間がいるわけが無い。
 絶対に目を合わせてはいけない。魂をもっていかれるぞ。ほら、隣村の。そう……松の下の末娘。
 可哀想になあ。見てしまったんだと、それからあれさ。ココがもう、ダメになった。魂抜かれちまったんだよ。赤い爪をした鬼が出たらしい。
 だからオメェは間違っても眼を合わすなよ。どんだけ綺麗でも相手は人で無しだ。わがったか。
「わがった。そげなもん見んね」
「オメェはええ子だ。ちゃんとおっとうのゆう事さ聞いて、そのまま大きくなってけれ」
 我が子を抱きしめる父と抱きしめられる娘の穏やかな時間。太陽はゆっくりと落ちていき、世界が紅く染まる逢魔が時。人ならざるものがぞろぞろと、山を登り進んでいく。
「なんかさっき、現地の人に見られたっぽい」
「あー、なんか霊力強い人には見えちゃうみたいだよ」
「問題ないかな……」
「大丈夫じゃない? ほら、次の賽投げてよ」
「ハイハイ、と」
 美しい着物を着た公達や、勇ましい武者。親しげに語り合う姿は、気がつけば目を取られる程に煌びやかだ。
 籠いっぱいに摘んだ山菜を持ち、遠くを見詰めたまま立ち止まった姉の腕を妹が引く。
「ねえさん、かえろ」
「そう、ね」
「なにかあるの」
「見ちャダメ」
「ねえさん?」
 きれいな、きらきらがたくさんあるの。それが姉が喋った最後の言葉。まるで強い力にあてられたように、姉は可笑しくなってしまった。
 厚樫山には霊が出る。若い娘の命を吸う、悪霊が住んでいる。


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