女の話
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緊張に瞳を揺らし、それでも凛とした声音で宣言した清い霊力に満ちた女を見て、長谷部はにっこりと笑ったのだった。
「此方こそ宜しくお願い致します」と。
ブラック本丸の引継ぎと聞いて、○○(審神者になった彼女の本名)は緊張していた。
養成学校でいくら好成績をとっていたといっても、実践ははじめてなのだ。しかもそれがブラックの引継ぎとなれば、学んだことのほとんどは意味をなさない。
この本丸の前の審神者は、乱暴で横暴な男だったという。現に刀帳に記載があるはずの刀剣男士の何振かは存在しておらず、きっと折れてしまったのだろう。
特に短刀は使い捨てにされていたらしい。今残っている短刀は小夜左文字の一振りだけだ。―――なんてひどい。
刀剣男士は人間に味方をしてくれる優しき神だ。それを傲慢にも使い捨てるようなことは、決して許されない。
前審神者は所業が知られ退任を迫られた際、抵抗し政府の役人に斬りかかり、敵わないと知るや否や護衛として同行させた短刀で割腹自殺をしたという。とにかく、苛烈な人柄だったのだろう。
ひとつ息を吐いて、これからの事を考える。私が出来ることは何なのだろうか。
傷付いた神々を癒し、また、共に戦って頂けるよう誠心誠意尽くすことが求められているのだ。
世に聞く『ブラック本丸引継ぎ』とは違い、ここの刀剣男士は○○に協力的であり、特に前任の元でも近侍の命を受けていたというへし切長谷部は、不慣れな仕事で戸惑う時も常に傍で助けてくれている。
いつでも柔和な笑みを浮かべ、○○に従い尽くしてくれる姿には信頼と信愛すら感じていた。ああ、きっと私はここでうまくやれる。○○は本当にそう思っていたし、疑ってもいなかった。
へし切長谷部は後ろ手に短刀を握っている。魂のなくなった、形だけの短刀の柄に指を這わす。
にっこりと笑みを作る。その瞳にうつる、女になりきっていない少女の白い首をじっと見つめる。
首、肩甲骨のでっぱり、腰のへこみ、尻のまろやかな曲線、棒のように細い脚。
短刀の使い方などわからないが、どこを斬れば一番効率がいいのか。考えながら笑みを作る。
薬研藤四郎は主を決して傷つけない。その短刀で、割腹自殺だと。笑わせる。
庭から小夜左文字が二人をじっと見ていた。見ていただけで、何もいわなかった。本丸の中、すべての刀が口を閉ざしていた。見ざる聞かざる言わざる。
だってここは主の本丸。主が帰ってくる場所。あの日、確かに主は言ったのだ「留守を頼むぞ」と。
侵入者を排除するだけです。なにかわるいことはありますか。
夕暮れの渡り廊下、長い影が大きく動いた。
悲鳴が聞こえた。みんな耳をふさいだ。
長谷部は笑ったし、小夜は小さく手を合わせた。欠片も無くなってしまった、主の霊力を思い出して誰かが少しだけ泣いた。
後に残ったのは女の死体がひとつと、何振りもの空っぽの刀だけであった。
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